2021 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属・ルイス酸複合触媒の分子設計と複素環C-H官能基化のサイト自在制御
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20K23375
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉戒 直彦 東北大学, 薬学研究科, 教授 (50401170)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
砂田 祐輔 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70403988)
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Project Period (FY) |
2021-03-12 – 2024-03-31
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Keywords | 有機合成 / 触媒 / 遷移金属 / ルイス酸 / 結合活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
C-H結合の直接的かつサイト選択的な官能基化は有機分子の構造的複雑化や多様化を迅速に行う手法として理想的であり,複雑分子の合成や医薬品のリード化合物探索を加速する.本研究では,精密に分子設計された遷移金属と典型金属ルイス酸の複合触媒を用い,医薬品分子において重要な部分構造をなす含窒素複素環について,高度な反応サイト制御を伴ったC-H官能基化手法を創出することを目指している.本年度は,コバルトとルイス酸が空間的に近接した複合触媒の設計に基づくC-H結合活性化反応の探索を中心に検討を行った.具体的には,第三級ホスフィンと第二級ホスフィンオキシドが近接配置された二官能性配位子を種々合成し,それにコバルト触媒とアルミニウムルイス酸を組み合わせた触媒を用いて,複素環C-H結合のアルキンによるアルケニル化反応を検討した.その結果,二官能性配位子はピリジンやピリドンなどの複素環について,ルイス塩基性の窒素または酸素近傍のC-H結合に対して選択的にアルケニル化反応を促進することを見出した.この選択性は,以前に見出した,個別のコバルト触媒とアルミニウム触媒を用いた反応におけるサイト選択性と全く異なるものであり,複合触媒の分子設計の有効性を実証するものであると考えられる.さらに,以前の触媒系ではサイト選択的な結合活性化ができず複雑な混合物を与えたイミダゾピリジン類の反応においても,窒素近傍のC-H結合が選択的かつ効率よく変換されることが分かった.現在,より高活性な触媒の探索を目指して,配位子のリン上の置換基や骨格の修飾を鋭意検討しているところである.また,別のコバルト・ルイス酸複合触媒として,コバルト-二座ホスフィン触媒と亜鉛ルイス酸触媒からなる触媒系が,ニトリル化合物の炭素-シアノ(C-C)結合活性化を経るアルキンのカルボシアノ化およびヒドロシアノ化反応を促進することを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,含窒素複素環のサイト選択的なC-H結合活性化を実現するために,遷移金属・ルイス酸複合触媒の分子設計について,二つの主なコンセプトを提案している.ひとつは遷移金属とルイス酸を単一の二官能性配位子で連結する触媒設計であり,もうひとつは遷移金属とルイス酸を非共有結合型相互作用によって連結する触媒設計である.本年度の研究では,前者の触媒設計のコンセプトの実証に取り組んだ.その結果,構造的に単純であり,また容易に合成可能でありながら,これまでに遷移金属触媒反応に活用されることのなかった第三級ホスフィンと第二級ホスフィンオキシドのハイブリッド型配位子が,コバルト・アルミニウム触媒による窒素原子近接位のC-H結合活性化を選択的に促進することを明らかにすることができた.これは,本研究の根幹をなす作業仮説,すなわち遷移金属とルイス酸の空間配置制御に基づく結合活性化のサイト選択性の精密制御の有効性を実証するものであり,研究全体の成功に向けた大きな一歩であると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって,第三級ホスフィン・第二級ホスフィンオキシドのハイブリッド型配位子が,コバルト・アルミニウム複合触媒による含窒素複素環の窒素近接位のC-H結合活性化に有効であることを明らかにした.今後の研究の推進方策は,以下の通りに計画している.(1)上記ハイブリッド配位子の構造展開と高効率化:現在までに,C-H結合活性化の効率は両方のリン原子の電子密度が高くなるほど上がることが示唆されている.従って,より電子豊富なハイブリッド配位子の合成と触媒反応検討を行う.また,配位子の骨格についても構造展開を行った上で最適な配位子を特定し,種々の窒素複素環を用いて近接位C-H活性化反応の適用範囲を明らかにする.(2)遠隔位C-H結合活性化のためのハイブリッド配位子の開発:本年度実証された触媒設計に立脚して,含窒素複素環の窒素遠隔位のC-H結合活性化に有効なハイブリッド配位子を開発する.具体的には,コバルトを配位する二座ホスフィン部位とアルミニウム等のルイス酸を固定するためのヒドロキシ基を,様々な長さおよび幾何構造をもつリンカー部位で連結した配位子を合成する.合成した配位子を用いて,ピリジンのC-H結合活性化反応をモデル反応として検討し,C3位およびC4位の活性化に選択性を示す配位子を特定する.特定した配位子を用いて置換ピリジンおよび関連する窒素複素環の反応を精査し,遠隔位C-H活性化の適用範囲を明らかにする.(3)錯体化学および計算化学的検討:これまでに開発したハイブリッド配位子から生じると推定される複合触媒の構造および作用機序についてより深い知見を得るため,錯体化学および計算化学的検討を行う.すなわち,コバルト・ルイス酸複合錯体の合成と構造決定の試み,および複合錯体によるC-H結合活性化の機構に関する理論計算を行う.
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Research Products
(14 results)