2022 Fiscal Year Research-status Report
原始重力波の発見を目指す-ミリ波の広帯域観測で理解して分離するCMBと星間塵
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20KK0065
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
服部 誠 東北大学, 理学研究科, 准教授 (90281964)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本多 俊介 筑波大学, 数理物質系, 助教 (30835020)
鈴木 惇也 京都大学, 理学研究科, 助教 (90795014)
梨本 真志 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員 (90888132)
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Project Period (FY) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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Keywords | 宇宙マイクロ波背景放射観測 / 宇宙論 / 超伝導検出器 / 星間塵 / データ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙マイクロ波背景放射偏光観測により宇宙初期の解明を目指すスペイン領カナリア諸島テネリフェ 島のテイデ観測所に設置したGroundBIRD望遠鏡(GB)の本観測で使用する超伝導検出器カメラをオランダ宇宙研究所(SRON)およびデルフト工科大学(TUDelf)と共同で設計し、作成を完了した。成果の一部を天文学会で発表した。コロナの影響で現地への渡航が制限されたことの副産物としてリモート観測手法を確立することができた。昨年度、本研究で作成したテスト観測用検出器を用いて GBで様々な試験観測を行った。月の観測データを用いたビームパターン導出手法を確立し天文学会で発表した。大気放射起源のノイズをGBの高速回転スキャンの特徴をフルに活かしてデータから除去する手法の開発を行い成果の一部を物理学会や国際会議で発表した。 カナリア天体物理研究所(IAC)の研究者と共同で"Galactic Science & CMB foreground"というタイトルの国際会議を主催し2022年12月12日ー15日の日程でテネリフェで開催した。対面主体でオンラインとのハイブリッド形式で実施した。特に日本から参加した大学院生等若手研究者にとって世界の研究者との繋がりを構築する有意義な場であった。 我々が2020年に提案しCMB shadow と名付けた効果を観測データをシミュレートしたマップを用いて、次世代CMB偏光観測では正しく考慮しないと誤検出の恐れがあることを示し、取り除く方法を提案した。成果は、国際会議・天文学会で発表し、査読論文に投稿中である。 星間塵の内数で大多数を占める極小微粒子のこれまでの扱いに物理的な問題があることを示し、修正することで強度放射と偏光放射のスペクトルに系統的な差が現れることを示した。成果の一部は、国際会議・天文学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GroundBIRD望遠鏡の開発は、おおむね当初の計画通り進展している。コロナの影響で現地に日本人研究者を派遣して開発を行う機会が限定されたが、その反面遠隔操作で観測を行うスキームの開発が進み一通りのことが遠隔操作で行えるようになった。実際、2022年度の観測データの大半は遠隔操作で取得された。 CMB観測の高精度化を目的としたデータ解析手法の開発も順調に進展している。我々がCMB shadowと名付けた効果が、次世代CMB観測では無視し得ないことを現実的なマップベースの研究で示すことができ、その重要性がより鮮明になった。 星間塵の理解の深化に関する研究は、今高いが物性物理分野をも巻き込んで大きな変革をもたらす可能性がある壁に直面しており、計画より若干進捗が遅れている。ここまでの研究で星間塵の内極超微粒子からの放射が、ミリ波サブミリ波域での星間塵からの放射強度スペクトルと偏光スペクトルに系統的な差を生じる可能性を示した。同時に極小微粒子は所謂メゾスコピック 系であり、メゾスコピック 物質の物性を取り入れたモデル化が必須であることが明らかになった。メゾスコピック 物性を星間塵のモデルに取り入れるのは、一筋縄で行く作業では無く、その打破に向けて物性分野の専門家や関連文献からの情報収集にあたっている。
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Strategy for Future Research Activity |
GB本観測用検出器の性能評価実験をSRONおよびTUDelfで本事業で派遣した大学院生が現地研究者と協力して行う。その後、テネリフェに運搬しGBに搭載して、試験観測をへた後、今年秋から本観測を開始する。 以下手法でGBの偏光測定精度を極限まで向上させる。工作精度の限界を極めてワイヤーグリッドを作成し、これを用いて各検出器素子が測定する偏光方向を更正する。我々が考案した独創的なデータ解析手法を用いて更正の不完全さ由来のノイズを差し引く手法を完成させる。実際の観測データに適応して実用性を実証する。GBの最大の特徴である高速回転スキャンの特徴を活かして大気起源のノイズを除去して、大角度スケールのシグナル抽出を可能とする解析手法および観測手順を確立する。これらの課題実施の為にテネリフェに大学院生を長期派遣する。 これまで大角度スケールの解析に特化してきたCMBデータ解析手法をより小角度スケールに適応できるように拡張し、次世代地上実験で得られたデータの解析に適応できるようにする。カナダ理論物理研究所に大学院生を派遣し、現地の研究者が最近取得した3次元星間塵温度地図をCMB shadow の研究に取り込み、より精度の高いデータ解析手法を構築する。ツールーズ大学に大学院生を派遣しPlanckデータから銀河団を抽出解析にCMB shadowを取り入れて再解析を実施する。研究代表者も同行し、研究を軌道にのせる。 星間塵の研究とメゾスコピック 物性の融合研究は、大学院生と研究代表者が中心になって行う。 当面は、東北大学の物性物理の研究者との議論や文献を通じた情報収集で、モデル構築に務める。要所要所で、当該分野の国際的な研究者が集まる国際会議での成果発表し、当該分野の世界的研究者とのつながりを構築する。
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Causes of Carryover |
コロナの影響でGB望遠鏡の開発およびそれを用いた観測の実施のために現地に日本人研究者を派遣することが難しかったため遠隔操作で観測を実施するスキームを2021年度までに開発し、主に遠隔操作で観測を行ったためテネリフェへの出張機会が大幅に減少した。コロナの制約が無くなったためオランダでの本観測用検出器の性能評価実験、テネリフェでの本観測の実施のために若手研究者の派遣を行う。当初分担者と大学院生が参加を予定していた星間塵の国際会議がコロナの影響で2年延期されたためその分の予算が未消化であった。今年10月開催が確定した。今年これに参加する。 CMB観測の高精度化を目指した解析コード開発および星間塵の理解の深化を目指した研究を分担する大学院達が昨年度まで修士学生であったため長期海外出張により国際共同研究を展開するには実績が不十分であった。二人とも今年度から博士後期課程に進学し、長期派遣による国際共同研究実施が時間的にも実力的にも可能となった。今年度、彼らの派遣を本研究経費で実施する。
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Research Products
(1 results)