2021 Fiscal Year Research-status Report
FT-ICR MS分析を用いたフィンランド泥炭林の溶存有機物の役割とその影響評価
Project/Area Number |
20KK0241
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (30453153)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 いず貴 (井手いず貴) 兵庫県立大学, 環境人間学部, 客員研究員(研究員) (40831194)
西村 裕志 京都大学, 生存圏研究所, 助教 (50553989)
井手 淳一郎 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (70606756)
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Project Period (FY) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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Keywords | 泥炭 / 溶存有機物 / 根滲出物 / 森林施業 / フィンランド / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
北緯66度以北に広がる周極域北方林の土壌には、膨大な量の炭素が数千年に亘って泥炭 (Peat)として蓄積されており、地球温暖化の防止に貢献している。Peatの分解は溶存性の易分解性DOMが土壌微生物活動のプライミング効果を引き起こすことで進行する。北方林におけるPeatの分解をもたらす有機物について分子レベルで明らかにした例は見られない。そこで本研究は、フィンランド北方林のPeatの分解機構と、その結果流出するDOMの変遷を分子レベルで解明することを目的としている。そのため、超高性能質量分析器FT-ICR MSを用いて泥炭土壌に流入するDOM分子の同定を試みる。そのために今年度は、定期的にフィンランド側共同研究者である東フィンランド大学のJukka Pumpanen教授らとオンラインミーティングを開催し、下記の実験を実施した。 (1) FT-ICR MSを用いたDOM分子群の同定法の確立、を目指した。ここではPeat北方林を河川流域とする河川水を採取し、FT-ICR MSで分析した後に、Van Klevelin Diagramを作って分子群のグルーピングを試みた。水サンプルからは、リグニン、溶存性炭素、脂質などの成分に分けられる分子が数百~数千同定され、それらの分子式が推定された。またこれらはPeat由来と考えられる難分解性成分を含むグループも同定された。さらにPeat分解に大きく影響すると考えられる根の滲出物を採取する手法を検討した。ここでは、国内の森林で、根の滲出物の採取のために開発されたPhillips法とAkatsuki-Makita法の二種類を実施し、採取効率を評価した他、設置時間、リカバリータイム、Phillips法における培養液の成分の影響などを検討した。ここで得られた知見は、今年度以降、泥炭北方林での根系からの滲出物の採取に役立てることができると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1) 新型コロナの蔓延により、海外渡航が禁止となり、調査地や共同研究先であるフィンランドの研究者を訪問できなかったため。 (2) 2021年度は記録的な豪雪の冬となり、試験地の選定が困難であったため。 (3) ロシア-ウクライナ間の戦争により、ヨーロッパの政情が不安定となり、フィンランドと日本を結ぶ航空機の飛行ルートが変更となったほか、減便が相次いだ。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)については、2022年3月より海外渡航が可能となったため、現地に赴き、試験地の選定、実験環境の構築などが可能となった。よって今年度は東フィンランド大学を訪問し、実験の方法やその準備について話し合う。またフィンランド側の共同研究者らと実験のタイムテーブルを作成する。これらによって研究の進展が期待できる。 (2)については、雪が無くなる5月後半からフィールドワークが可能となると期待される。根からの滲出物を効率よく採取するために、国内で様々な実験条件下で採取法を検討し、知見を蓄積しておく。 (3)については、タイミングを計って現地訪問できるように、国内での業務を調整しておく。 上記に加え、根の滲出物がPeatの分解にもたらす影響を評価するための実験手法の確立が必要と考えられる。国内で小型チャンバーを使ったCO2放出量の計測システムを開発し、フィンランドの試験地で計測できるようにする。
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Causes of Carryover |
本研究はフィンランドの泥炭林における根の滲出物の分子レベルでの分析と、根の滲出物が泥炭の分解にもたらす影響を評価しようとしている。しかしながらコロナ禍により、海外調査が極めて困難な状況が続いているため、調査の予定が延期を重ねており、次年度使用額の繰り越しが生じた。海外渡航の状況が改善した場合は、繰り越し額を用いて、今後、調査地を選定して現地調査を実施する。状況が改善しない場合は、国内での実験に切り替えて、繰越額を用いて調査を行う予定である。
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