2021 Fiscal Year Research-status Report
電気分極由来の傾斜したバンド構造により発現する強誘電体の半導体物性
Project/Area Number |
20KK0330
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
狩野 旬 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (50375408)
|
Project Period (FY) |
2021 – 2023
|
Keywords | 強誘電体 / バンド構造 / 電気分極 / 角度分解硬X線光電子分光 / 半導体物性 / マルチフェロック |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は先に,強誘電体BaTiO3薄膜に対し放射光光源を用いた角度分解光電子分光実験を行い,これまで未知であった傾斜したバンド構造を観測することに成功している。しかし,強誘電体の特異な電子構造は明らかになったばかりであり,強誘電性半導体を用いた電子デバイスの完全設計には至っていない。そこで本研究では,① 傾斜したバンド構造からの電気分極形成機構を解明し,②新しいフェロイックデバイス設計の指針となる,強誘電性半導体物性の解明に取り組む。 初年度は,誘電性と磁性が共存するマルチフェロック物質においても,電気分極由来の傾斜したバンド構造が存在するのか?および従来型強誘電体に磁性イオンをドープさせることで磁性イオンが強誘電体結晶中でどのように振る舞うのか?の2点に着目して研究を行った。その結果,マルチフェロック物質BiFeO3において放射光源を用いた硬X線角度分解光電子分光法(AR-HAXPES)により,電気分極由来の傾斜バンド構造を初めて観測することに成功した。また,代表的な強誘電体BaTiO3に極低濃度の鉄イオンをドープさせた試料を合成し,その磁性およびバンド構造を明らかにすることができた。前者の成果については2022年6月の国際会議,後者は7月に仏共同研究グループに所属する博士論文公聴会にて発表される。 このように研究成果は順調に出ているが,研究代表者が仏へ滞在し在外研究を行うことが未だできていない。理由はコロナによる海外渡航の制限によるもので,遅れながら2022年春には渡航を予定していたがウクライナ情勢もあること,仏共同研究グループの博士課程学生の研究を優先させために遅れが生じている。そのため日本で行う実験を前倒しして行い,その分の成果は出ているので研究内容に遅れはない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の在外研究がコロナのため遅れており,そのため研究計画の立て直しを行った。仏の共同研究グループとも協力し,日仏で実験を分担して行い,日本で行う予定だった実験を前倒しして実施したことで,全体の整合性はとれている。そのためおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
傾斜バンド構造の詳細を知るため,強誘電体BaTiO3について膜厚を変えた薄膜合成進め,2022年度中にSPring-8での測定に臨む予定である。 マルチフェロックデバイス設計のため,従来型強誘電体に磁性イオンをドープした試料合成を進めている。これまでBaTiO3にFeイオンを低濃度ドープさせた試料を合成し,磁性・バンド構造評価実験を行い成果を得られているが,今後はFeイオンの配位状態を解明するためにメスバウアー分光法が必要と考えている。しかし低濃度のため通常の試料では測定不可能であるため,57Feで置換したBaTiO3の合成を行う。現時点では1種類のドープ量の試料合成しか成功していないが,メスバウアースペクトルを測定することに成功している。今後は,リートベルト解析によるより詳細な結晶構造同定,および他の57Feドープ量の試料合成を行いメスバウアー分光法を行う予定である。
|