2021 Fiscal Year Research-status Report
精子における膜電位シグナルによる脂質リモデリングの解明
Project/Area Number |
20KK0376
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
河合 喬文 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70614915)
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Project Period (FY) |
2021 – 2023
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Keywords | TMEM16 / 精子 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に細胞の膜電位情報は「電位依存性イオンチャネル」によって感知され、それに伴うイオンの流出入によって細胞生理機能が制御される。一方で、電位依存性ホスファターゼは、イオンチャネル活性を持たず、その代わりにイノシトールリン脂質に対するホスファターゼ活性を持つという非常に興味深い蛋白質である。 私は近年精子において、この膜電位依存的に酵素活性を示すVSPが、「電気信号を感知してイノシトールリン脂質レベルを制御する」メカニズムが存在することを明らかにした。本研究ではこの概念をさらに拡張し、最終的には「電気信号を感知して脂質分布を制御するメカニズム」を解明することを目的としていた。 本年度は、このホスファチジルセリンのスクランブル活性制御において重要な働きを示すことで知られるTMEM16ファミリーの膜タンパク質について、その活性がイノシトールリン脂質による制御を受けるのかについて、VSPを用いて研究を行おうと考えた。 TMEM16はCa2+によって活性制御を受けるスクランブラーゼであるが、その活性の際にイオン電流も生じることが知られている。そこでこのイオン電流を指標にTMEM16活性を測り、PIP2による制御機構も調べようと考えた。ここでは最も研究の進んでいるTMEM16Fを対象とした。実際の測定については、この分子の解析にノウハウのあるHuanghe Yang lab(米・デユーク大学)を訪問し、そこに長期滞在することによって行った。まずはHEK細胞においてTMEM16FとVSPを共発現させることで検証した。その結果、VSPがTMEM16Fを制御する様子が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実際にDuke大学を訪問し、脂質分子の分布制御に携わっていることで知られるTMEM16の分子ファミリーについて、その機能解析のコツについて指導を受けた。これによって、実際の論文を読むだけでは分からない、この分子群の「クセ」について、詳しく理解することが可能となった。また、これらの情報に基づき、実際にTMEM16Fが既存のPIP2感受性タンパク質KCNQとの活性と比較して、どれほど強い制御を受けているのかについて、VSPを用いることで検証した。実験は、これらの解析によく用いられる野生型HEK細胞にTMEM16FとVSPを共発現させ、膜電位固定実験と呼ばれる電気生理学的検証(パッチクランプ法)を行うことによって行った。結果、VSPを強く活性化させることで、TMEM16Fの電流が減少していく様子が観察され、実際にVSPがTMEM16Fの活性を制御し得るということが、本研究の結果から見出された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以上の知見を基に、実際にVSPによるTMEM16分子の制御機構がマウスの生体内に存在し得るのかについて検証したいと考えている。また、TMEM16分子についてはTMEM16F以外にも多くの分子種が存在し、これらのPIP2感受性が種類によってどのように異なっているのかとうことを検証することも興味深い。 また、これまで申請者の研究ではイノシトールリン脂質の分布や量が精子の成熟状態に依存して変化しているというデータが得られているが、これについてホスファチジルセリンなどの他の脂質ではどうなっているのか、という点についても検証することが重要であると考えている。 これらの点を統合的に理解するため、電気生理学・生化学・顕微鏡解析・マウスの個体を用いた解析を組み合わせていくことで解析していきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)