Research Abstract |
原形質流動は,古くから知られる植物特異的な細胞内運動である.その実体は,ミオシンがオルガネラを持ってアクチン繊維上を滑る運動と考えられているが,流動を支えるメカニズムは未解明な部分が多い.我々は小胞体が川筋を描くように流動する現象に着目し,細胞内で最大の膜系ネットワークをもつ小胞体が原形質流動に重要な役割を果たすのではないかと考えた.この仮説を検証するために,本年度は,小胞体と各オルガネラの動きの比較,および小胞体流動に関わる新規因子の解析を中心として,下記に示す知見を得た. 〈1.複数オルガネラの同時運動評価法の開発〉 昨年度は,小胞体の流動計測ソフトを開発し,小胞体の時空間的な流動特性を明らかにした.そこで本年度は,さまざまなオルガネラの動きにおける小胞体流動の関与を明らかにするために,各オルガネラの動きを小胞体と同時に計測するソフトの開発を行った.その第一段階として,単一オルガネラの時系列蛍光画像を用いて,各オルガネラの形状の機械学習を行った.現在,複数のオルガネラを同時に捉えた時系列画像を用いてオルガネラの自動分類を行い,一つの画像から各オルガネラが分布する領域を自動推定する工程の開発を進めている. 〈2.小胞体流動の分子機構の解析〉 これまで,シロイヌナズナを用いて小胞体流動に寄与する主要なミオシンを同定し,このミオシン変異体ではアクチン束に沿った流動によって形成される小胞体の筋状分布が消失するのみならず,アクチン束の組織化まで影響を受けていることを明らかにした.本年度は,小胞体流動が抑制される新たな変異体を単離し,その解析を行った.ミオシン変異体とは逆に,この変異体では小胞体の筋が異常に発達し,太いケーブルを形成していた.さらに,小胞体が細胞内で大きな凝集体を形成している様子も観察され,他のオルガネラもこの凝集体中に巻き込まれていた.原因となるタンパク質は小胞体に局在することが示唆されたため,今後,流動における役割の解析を進める予定である.
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