Research Abstract |
本研究の目的は,癌に対するターゲッティング機能を有するドラッグデリバリーシステム(DDS)を生体内輸送蛋白質(リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素,L-PGDS)を用いて創製することである。本年度は,概ね研究実施計画に従い研究を遂行できた。平成21年度に作製・精製した20種類の変異体L-PGDSと難水溶性薬剤ジアゼパム(DZP)の結合親和性を測定した。その結果,S81F変異体L-PGDSが最も強く(K_d=22μM),あるいはF83A変異体L-PGDSが最も弱く(K_d=338μM),DZPと結合することが判明した。また,これら変異体に対するDZPの溶液中の濃度は,それぞれ365μM,及び219μMであり,変異型L-PGDSとDZPの結合親和性が高いほど,DZPの溶液中の濃度が上昇することが判明した。さらに,DZP複合体をマウス静脈内投与し,in vivoにおける薬効評価を行った結果,DZPの溶液中の濃度が等しいときには,DZPに対する結合親和性が低いほど,薬効が上昇することが判明した。一方,昨年度精製に成功した新生血管の内皮細胞に発現する膜貫通蛋白質CD13を認識するAsn-Gly-Arg(NGR)モチーフをL-PGDSのN末端に導入した変異体L-PGDSと難水溶性抗がん剤であるSN-38(K_d=50μM)との複合体を担癌マウス(ヒト大腸癌細胞株Colo201細胞をヌードマウスに移植)の静脈内に投与したところ,経時的に測定すると,L-PGDSとSN-38複合体投与群よりも,NGRモチーフ融合L-PGDSとSN-38複合体投与群の方が有意に癌組織に対する抗腫瘍効果を示した。 これは,本DDSのターゲッティング機能を証明できる画期的な結果である。今後,様々な癌細胞に対する難水溶性抗癌剤との複合体を作製し,担癌マウスによる薬理評価を行う。
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