2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21220011
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
安藤 譲二 獨協医科大学, 医学部, 特任教授 (20159528)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 希美子 東京大学, 大学院・医学系研究科, 講師 (00323618)
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Keywords | 血管内皮細胞 / Shear stress / メカニカルストレス / メカノセンシング / ATP / カルシウムチャネル |
Research Abstract |
細胞や組織が力学的環境に由来するメカニカルストレスを感知して応答することは、その機能や生存にとって極めて重要な役割を果たす。しかし、そうした力学応答の仕組みはまだ十分解明されていない。我々は血管細胞が血流に起因するshear stressを感知して応答する分子機構を研究してきたが、その中でカルシウム・シグナリングが働くことを明らかにした。すなわち内皮細胞にshear stressが作用するとATPが放出され、それがATP受容体であるP2X4チャネルを活性化することで細胞外カルシウムの流入が起こるのである。平成23年度はshear stressのカルシウム・シグナリングの分子機構を解析するため、同一細胞において我々が独自に開発したATPイメージングとFluor4を用いたカルシウム・イメージングを行った。shear stressが作用するとカベオラが集積する細胞膜から即座に高濃度(数十から数百mM)のATP放出が起こり、その直後に同じ場所から細胞内カルシウム濃度の上昇と細胞全体に伝搬するカルシウム波を画像として捉えることができた。このことからshear stressのカルシウム・シグナリングにカベオラが重要な役割を果たすことが示された。遺伝子工学的に作製したヒオチン化ルシフェラーゼ蛋白を高密度に細胞表面に付着させる、今回、我々が開発した新規イメージング法は、これまで困難であった生細胞からのATP放出反応を高い空間分解能でかつリアルタイムで解析することを可能にした。血管内皮細胞に限らず生体の多くの組織の細胞がメカニカルストレスに応答してATP放出を起こし、それがATP受容体を介して組繊の機能調節に働くことが知られている。本イメージング法はATPが関わる様々な生命現象の研究に応用でき、有用性は高いと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は血管内皮細胞が血流刺激であるshear stressをセンシングする分子機構と、それが生体において果たす役割を解明することである。このため次の3つの課題を設定し研究を遂行した。 1.Shear stress作用下の細胞膜分子の挙動 2.Shear stressのメカノセンシング機構 3.Shear stressの情報伝達と循環調節 それぞれの課題について研究代表者と分担者が日常的に濃密な議論を行い、精力的に実験・データ解析を行って来た。その結果、現在3年を経過したところで当初の目標は基本的に到達していると考えている。これに加えて以下のような予定を超える成果が得られた。今後残りの研究期間を利用して更なる研究成果を挙げていく予定である。 1の課題では環境感受性プローブのLaurdanと2光子顕微鏡を用い、shear stressが内皮細胞膜の脂質2重層のlipid orderを低下させる現象を世界で最初に画像化することができた。また、同一細胞で膜のlipid orderと流動性を測定し対比することに成功したが、こうした実験は他に類をみない。この実験でとくに細胞膜の小さなフラスコ状陥凹構造物であるカベオラが集積する部位がshear stressに敏感に反応してその物理的性質(lipid orderと流動性)を変えることが判明した。このことはカベオラがshear stressのメカノトランスダクションに関与する機構を理解する上で有用な情報を提供すると思われる。 2の課題では従来、細胞からのATP放出現象を可視化する様々な試みがなされてきたが、どれも高い空間・時間分解能でイメージングすることができなかった。今回、我々はATPが惹起するルシフェリン・ルシフェラーゼ反応で生じる化学発光量を増すため遺伝子工学的に作製したビオチン・ルシフェラーゼ蛋白をビオチン化した細胞膜表面に接着させた。こうした工夫で細胞のどこからATPが放出されるかを判定できる高空間分解能のリアル・タイム・イメージングを実現した。さらに、同一細胞でATP放出反応とカルシウム反応を測定することに挑戦し成功することができた。その結果、カベオラが集積する部位からATP放出が起こり、そこからカルシウム波が始まって細胞全体に伝搬するという画期的な画像を得ることができた。今回開発した新規のATPイメージング法は血管内皮細胞に留まらず、刺激によってATPを放出する様々な細胞における解析にも広く応用が可能であり、細胞科学研究に与えるインパクトは大きいと思われる。 3の課題ではマウス胚性幹細胞やヒト末梢血由来内皮前駆細胞の血管細胞への分化にshear stressが重要な役割を果たすことと、その分化誘導作用に関わる情報伝達経路と転写因子を介した遺伝子発現調節機構を世界に先駆けて明らかにできた事は予想以上の成果と考えている。Shear stressにES細胞の分化を誘導する効果がある事実は、胚における器官形成の仕組みの理解に新たな視点を提供するとともに、ES細胞やiPS細胞を用いる再生医療においてメカニカルストレスが細胞分化誘導技術として応用できることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度より行ってきた以下の3つの項目についての研究を継続するとともに、これまでに明らかになった研究遂行上の問題点を踏まえて部分的な変更を行う予定である。 1.shear stress作用下の細胞膜分子の挙動の解析:血管内皮細胞にshear stress作用させたときの、1)細胞膜の流動性、2)膜リン脂質の相転移、3)膜ミクロドメイン(ラフト、カベオラ)の変化、4)インテグリンと細胞骨格の挙動、5)細胞増殖因子受容体のリガンド非依存性の燐酸化、について解析することを計画していた。1)、2)、3)については順調に研究が進展している。4)については本研究開始後、米国の複数の研究グループが先進的な実験を展開し新知見を発表(Grashoff,C, Nature 2010:Rahimzadeh,J, Am J Physiol 2011)したことを勘案しその推移を見ることとした。5)に関しては、我々は細胞膜に発現する細胞増殖因子(VEGF;vascular endothelial growth factor)の受容体(VEGFR)が、そのリガンドに依存することなくshear stressで燐酸化することを見出した。そこで平成24年度はshear stressが直接VEGFR分子の2量体化を起こすか否かについて、遺伝子工学的に蛍光蛋白(GFP)を付加したVEGFRを細胞膜に発現させ、shear stressを作用させたときのVEGFRの2量体化を全反射蛍光顕微鏡で画像解析する。 2.shear stressのメカノセンシング機構:我々はshear stressが内皮細胞からのATP放出を惹起し、それが内皮細胞膜に発現するATP作動性イオンチャネルP2X4を活性化して細胞内カルシウム濃度上昇反応を引き起こすことが、shear stressのメカノトランスダクションに重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。本研究開始後3年間でshear stressによるATP放出反応がカベオラから局所的に生じることと、その場所からカルシウム波が発生して細胞全体に伝搬することを見出した。さらに、従来、ミトコンドリアに分布しエネルギー源としてのATPを産生する役割を果たしていると考えられてきたFoF1ATP合成酵素が、カベオラ/ラフトにも存在し、それがshear stressによるATP放出反応に関わることが判明した。ATP合成酵素によるATP産生は膜を介したプロトンの濃度勾配により駆動されるので、shear stress負荷時の細胞内プロトン濃度、すなわち、pHの変化を蛍光プローブSNARFやBCECFを用いて測定する予定である。また、ATP放出の径路については 1)膜ATP合成酵素の役割に関して特異的阻害薬であるATP合成酵素の抗体、angiostatin、oligomycinを、2)細胞内の小胞輸送の関与について阻害薬であるmonesin、N-ethylmaleimide、brefeldinAを、3)ATPトランスポーターの役割について阻害薬であるgilbencramide、SITSを用いて検討する。 3.shear stressの精報伝達と循環調節:shear stressが生体で果たす生理的役割に関し、本研究開始後3年間でヒト末梢血由来内皮前駆細胞やマウスのES細胞の分化に及ぼすshear stressの効果を明らかにすることができた。また、内皮細胞においてshear stressの情報がP2X4を介したカルシウム・シグナリングに変換され、その下流でどのような遺伝子が応答するかについてDNAマイクロアレイを用いた解析を行っているが、平成24年度からはヒト臍帯静脈内皮細胞から樹立された完全長cDNAライブラリーを用い、shear stressに応答する遺伝子の網羅的解析を加える予定である。この目的に本科研費で購入した機能イメージング・セルソーター(Functional Drug Screening System;浜松フォトニクス FDSS6000)を使用する。また、shear stressのカルシウム・シグナリングが組織・個体レベルで循環機能の調節に果たしている役割についてP2X4の遺伝子欠損マウスを用いた解析を行ってきているが、P2X4は内皮細胞だけでなく脳神経系を含む全身の組織に分布することから、P2X4欠損マウスで現れる循環器系の障害が内皮細胞のshear stressのメカノトランスダクションに基づいているかについては血管のP2X4だけを欠損させた条件で検討する必要がある。そこでVE-cadherin-Creマウスを用いた血管のP2X4だけを欠損させるconditionalマウスを作製する予定である。
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Research Products
(21 results)