2012 Fiscal Year Annual Research Report
レーザー分光法による都市の大気質診断とオキシダント制御に関する研究
Project/Area Number |
21221001
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梶井 克純 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (40211156)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今村 隆史 独立行政法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (60184826)
横内 陽子 独立行政法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (20125230)
|
Project Period (FY) |
2009-05-11 – 2014-03-31
|
Keywords | VOC / OH収率 / OH反応性 / オキシダント / 窒素酸化物 |
Research Abstract |
東京農工大学FM多摩において平成24年9月10日から10月6日まで大気集中観測を実施した。参加研究機関は京都大学、東京農工大学、国立環境研究所および首都大学東京であり、反応性無機化学物質、揮発性有機化合物(VOC)、窒素酸化物(NO、NO2、HONOおよびHNO3)、OH反応性およびエアロゾルを観測した。首都圏の人為起源物質に加えて植物起源VOCの放出が顕著な場所であり、郊外地域における光化学オキシダント生成の寄与を見積もることが可能となった。また、未知なるOH反応性が全反応性中18から26%存在することが明らかとなった。 単一植物(カナダトウヒ)からのVOC発生量の温度および光強度依存性を測定した。またOH反応性測定から未知の反応性について検討した。計測されたVOCはイソプレン、アルファピネン、ベータピネン、カンフェン、リモネン、3カレン、ベータミルセン、カンファー、リモネンオキサイド、エストラゴール、リナロール、メタノール、アセトンおよびアセトアルデヒドであった。光および温度の増加とともに未知反応性が増大し、常温下(20℃)に比べ35℃では40%に主及ぶことが明らかとなった。 シャーシダイナモメータを用いた自動車排気ガス実験では軽自動車両(4台)測定した。1500ccクラスの一般乗用車に比べ、窒素酸化物排出量が大きいこと、未知反応性がやはり2割程度存在することが明らかとなった。 OH収率測定装置の開発に成功した。反応管内に導入した大気試料にOHを暴露して生じた過酸化ラジカルを測定し、初期に投入したOHラジカルに対する割合を決定することで、OH反応性のうちどの程度がオキシダント生成に寄与するかをその場大気で測定できるシステムの構築に初めて成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度は植物起源VOC(BVOC)の総合的な高速検出システムが完成したことにより、飛躍的にBVOCの研究が進むと期待され初期の研究目標の一部は達成できていると考えられる。また、植物由来の未知反応性物質としてリナロールが指摘できたことの意義は深い。探索を炭化水素から含酸素化合物に広げる必要が新たに明らかになったと考えられ、当初予測していない新たな展開であると評価できる。国内の優勢樹種についての観測については計測システムが未完であったことから若干の遅れがあると考えている。 大気観測による未知のOH反応性を与える原因物質の特定には至っていない。しかしながらいずれの大気観測においても約100種類の反応性微量ガスを考慮してもやはり20から50%程度の未知反応性が検出されており、再現性の確認は出来た段階にある。 自動車の排気ガス測定を通して、新短期規制、長期規制、新長期規制と進むに従い、ガソリン乗用車の排気ガスは飛躍的にクリーンになっていることが明らかとなり、OH反応性という新たな指標により総合的に評価でき。我国の自動車登録台数およびそれら年式の乗用車の実効的な走行距離を考慮したOH反応性による排気ガス評価法を確立できたことは予想以上の成果であると評価できる。今後長期規制車両が暫時新長期規制車両へと転換されて行くことによりガソリン車両の大気への負荷は大きく軽減することが明らかとなった。 レーザー分光法を用いたOH反応性測定手法による大気質の診断は多角的な検証から有用であることが実証されたと考えられ当初の目的は達成されたと考えている。当初から計画に盛り込んでいるNO3ラジカル反応性測定装置についてはプロトタイプはほぼ完成しているものの、実大気計測は1度しか行われておらず、若干遅れていると考えている。 全体的な評価としておおむね初期の計画通り進行していると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
5カ年計画の4年が終了した時点で、おおむね計画通り進捗していることから最終年度についてもほぼ予定通り研究を推進すると考えている。本研究では実大気計測とプロセス計測を併用しながら大気中での反応を理解し、オキシダント制御のために重要な情報を引き出すことが最終的な課題であることから、今後は計測を主体とした研究から、現在まで蓄積した実験結果の解析・評価に重心を移した研究を推進する。具体的には1. 化学領域モデルに本研究で導かれた結果を組み込み、定量評価された未知なるOH反応性物質を考慮したときにオキシダント生成量を見積もること、2. VOCのエミッションインベントリーのセクター毎に未知OH反応性の感度解析を行うこと、3. 現状でのオキシダントの予報精度について検証をおこなうこと、などを計画している。それらに加えて可能な限りNO3反応性測定による大気質の診断方法の確立も平行して行う。更に、OH反応性測定による大気質診断方法の有用性は実証できたという立場に立ち、安価で容易に操作できるOH反応性測定手法(非レーザー法)の開発を手がけて、広くOH反応性が測定できるよう貢献することを策定している。
|
Research Products
(9 results)