2011 Fiscal Year Annual Research Report
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21224011
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 肇 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (60159019)
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Keywords | 液体 / 階層構造 / 自己組織化 / ダイナミクス |
Research Abstract |
本研究では液体の未解明現象、(1)水型液体の熱力学異常・運動学的異常、(2)単一成分の液体・液体転移現象の起源の解明とその応用、(3)ガラス転移現象の解明、(4)高分子メルトを含む液体の結晶化の素過程と機構解明、(5)液体・ガラス状物質の非線形流動・破壊現象の解明と制御、の5つの基本問題の解明を目指している。テーマ(1)、(2)に関して、我々は、水の結晶化を効果的に阻害する物質として知られているグリセロールを添加した水系において、水溶液系として初めての液体・液体転移を発見することにも成功した。また、(3)-(5)のテーマに関しても以下の成果を上げた。我々は、剛体球液体のモデル系であるコロイド液体の共焦点顕微鏡観察により、過冷却液体の中に局所的な回転対称性の破れを反映して、中距離のfcc的なボンド秩序と、短距離のアイコサヘドラル構造が形成され、体積分率の上昇とともにそれらが発達することを発見した。また、両秩序のうち前者が系の遅いダイナミクスに重要な影響を与え、後者は結晶化に対するフラストレーション効果として重要な寄与を与えていることを明らかにした。これらの結果は、液体のダイナミクス、相挙動のカギを握るのは密度の二体相関ではなく、多体相関、特にボンド秩序であることを強く示唆している。また、実際に数値シミュレーションによりこれを直接確かめることにも成功した。さらに、剛体球系の結晶化の素過程の研究により、結晶化の引き金になっているのは、これまで信じられてきた並進対称性の破れではなく、回転対称性の破れであること、さらには、結晶多形の選択は、結晶状態のエネルギー差で決定されるのではなく、液体の中で局所的に破れる回転対称性により決定されることを明らかにした。また、輸送係数の波数依存性と過冷却液体におけるストークス・アインシュタイン則の破れの起源の関係を明らかにすることにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように、過冷却液体のダイナミクス、結晶化の素過程を支配する隠れた秩序の存在を明らかにするとともに、液体の輸送特性などとの関連も明らかにすることができた。また、水系における液体・液体転移の発見も液体の本性に迫る上で重要な発見であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた成果をもとに、水系の熱力学・運動学的異常、液体・液体転移の物理的起源とダイナミクス、ガラス転移、液体の結晶化の素過程と機構解明などの研究を通し、従来の密度を基本変数とした液体論の枠組みを超えた新しい描像を打ち立てられればと考えている。
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