2009 Fiscal Year Annual Research Report
LRR膜貫通型タンパク質ファミリー機能不全による神経疾患発症機序の解明
Project/Area Number |
21240031
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
有賀 純 The Institute of Physical and Chemical Research, 行動発達障害研究チーム, チームリーダー (10232076)
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Keywords | 比較ゲノム解析 / 膜貫通タンパク質 / 遺伝子ターゲッティング / 行動解析 / 神経回路形成 / 精神神経疾患 / 疾患モデル動物 / 高次脳機能障害 |
Research Abstract |
(1)内耳の神経回路形成に重要な役割を持つ膜タンパク質「SLITRK6」を発見 内耳は、耳の最内部にある器官で、蝸牛、前庭・三半規管などから構成され、聴覚・平衡感覚などにかかわる。これまでに内耳の神経回路形成では、ニューロトロフィン(神経栄養物質)と呼ばれる分泌性タンパク質を介した情報伝達系が重要な役割を果たすことが知られていた。ニューロトロフィンやその受容体を欠損したマウスは、内耳の神経細胞が正しく突起を伸ばすことができない、細胞死を起こしてしまう、などの異常を示し、正常な神経回路を形成できない。 我々は、主に脳神経系に存在し、神経突起の伸展を調節する機能を持つとされている細胞膜貫通型タンパク質SLITRKファミリーの1つ「SLITRK6」を欠損するマウスを作製したところ、ニューロトロフィン欠損マウスに似た内耳の異常を観察した。SLITRK6は、内耳の神経細胞がシナプスを作る標的である感覚上皮という組織に存在している。SLITRK6欠損マウスから単離した感覚上皮細胞は、培養皿の中でも神経突起を引きつける働きが弱く、感覚上皮で産生されているニューロトロフィンの発現を調べたところ、SLITRK6欠損マウスでは内耳のニューロトロフィン発現量が低下していた。この培養皿に外部からニューロトロフィンを加えると、神経突起は正常マウスと同じ程度に伸びた。これらのことから、SLITRK6は、内耳のニューロトロフィン量を調節することで、内耳の神経回路形成に関与していることが明らかとなった。今回の発見は、感音性難聴※4の発症機構の理解や治療法の改善に役立つものと期待されている。 (2)LRR膜タンパク質遺伝子欠損動物の作製および神経学的表現型の解析 新たなはLRR膜タンパク質遺伝子欠損動物を解析したところ、そのうちの一つで統合失調症類似の症状(不安様行動の増強、過活動、感覚運動連関障害、社会性行動異常)を示し、AMPAおよびNMDA受容体の動態異常による海馬シナプス伝達効率変化を伴うことが明らかになった。
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