2011 Fiscal Year Annual Research Report
移民コミュニティの言語に関する総合的研究:言語接触の実態と言語政策の影響
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21242010
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
生越 直樹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90152454)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 徹 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (20173015)
日比谷 潤子 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (70199016)
マーハ ジョン 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (50216256)
平高 史也 慶應義塾大学, 総合政策学部, 教授 (60156677)
嶋田 珠巳 山形大学, 人文学部, 准教授 (80565383)
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Keywords | 移民言語 / 言語接触 / 言語政策 / 移民コミュニティ / バイリンガル |
Research Abstract |
1.フィールド調査によるデータ収集 日本のコリアン・コミュニティについては、総連系民族学校(神奈川・群馬)での参与観察を継続するとともに、東京の民族学校で行ったアンケート調査の結果分析を進め、論文として発表した(生越)。日本のベトナム系移民の調査は、神奈川県大和市、横浜市において、引き続き談話データ収集を行った。(林、平高)ドイツの移民コミュニティに関しては、モノリンガルとバイリンガルのトルコ語話者の間の、トルコ語指示詞の用法の違いを明らかにするために、2010年度に実施した実験データの書き起こし、およびアノテーション付けの作業を行った。また、指示詞の用法に関するアンケートデータを分析し、その結果について研究発表を行った。(林、平高)さらに、ドイツで日本語母語話者のドイツ語による談話データを収集し、他の言語を母語とする移民の言語との比較対照作業を引き続き行った。(平高)アイルランド・イングランドの移民コミュニティに関しては、アイルランド南西部において、伝統的な方言話者の言語使用に関する調査を行うとともに、言語接触による言語の動態をアイルランド英語を手がかりに考察し、その成果を国際シンポジウムで発表した(嶋田)。また、日本の大学生を対象に母語に関する意識調査を行った(マーハ)。カナダの日系コミュニティに関しては、トロント大学、ヨーク大学の研究協力者がトロントで従事している中国系カナダ人、イタリア系カナダ人の英語を対象とした分析結果と、日系カナダ人の英語を比較し、言語接触・言語変容の個別性と普遍性を考察した。(日比谷) 2.言語政策資料の収集分析 国家・コミュニティにおける英語の機能と言語政策における英語の位置づけに関する文献・資料収集(嶋田)、ヨーロッパにおける「母語」「母国語」「多言語/多文化主義」という概念に関する言語意識調査の結果や歴史的文献(文学、精神分析論、哲学など)の収集・分析(マーハ)を行った。 3.国際シンポジウム・研究会の開催と研究打ち合わせ会議の開催 2012年2月にドイツからMartina Rost-Roth氏(Augsburg University)、Bernt Ahrenholz氏(Jena University)を招聘し、Immigrant Language,Second Languageというテーマで第2回国際シンポジウムを開催した。また、研究会である東京移民言語フォーラムは、8月にオスロ大学のJan Terje Faarlund氏(オスロ大学)の発表、9月に在日コリアンの言語というテーマでの発表会、12月に橋本佳代子氏(クイーンズランド大学)の発表を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各移民コミュニティに関するフィールド調査は順調に行われており、かなりのデータが収集されている。さらに、その分析も進行中であり、コミュニティ内での言語使用の多様性、およびコミュニティによる言語使用の類似点と相違点が明らかになりつつある。また、言語政策の収集にも努めており、収集データとコミュニティの特徴との関連性について分析中である。同時に、国際シンポジウムおよび研究会を積極的に開催しており、国内外の研究者との研究交流を通じて、お互いの研究成果を検討する作業を続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の研究活動を通して、各地域の移民が話している言語は、我々が想定していたよりはるかに多様で複雑であり、移民言語という概念自体を問い直す必要性を感じている。我々が観察してきた言語は、確固たる体系を持つ言語というイメージとは異なる面を持っている。このことは人間が話す言語とは何か、という根源的な問題をも提起している。従来の言語という概念にとらわれることなく、より自由な発想で分析を進めていく必要があると考えている。
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