Research Abstract |
小澤は,量子測定理論の研究を行い,以下の成果を得た。不確定性原理により,測定における誤差と擾乱を共に少さくするにはハイゼンベルク限界と呼ばれる不可避的限界が存在することが知られてきたが,その限界が正しくないことがこれまでの研究で明らかにされ,小澤の不等式と呼ばれる新しい限界が理論的に導かれた。しかし,ハイゼンベルク限界が正しくなく,小澤の不等式が正しい限界を与えるという実験的検証はこれまで行われてこなかった。本研究では,スピン測定における誤差と擾乱の理論的限界を詳しく調べ,ある測定モデルでは,測定制御パラメータの広い範囲でハイゼンベルク限界が破れ,しかし,当然ながら小澤の限界が成立することを突き止めた。このモデルの実験的実現をウィーン工科大学の長谷川准教授と共同で研究し,ウィーン工科大学の実験炉における中性子のスピン測定によってこのモデルを実現し,実験データでハイゼンベルク限界の破れと小澤の限界の成立を実証することに世界で初めて成功した。この成果は,Nature Physicsに発表され,物理学の根本原理である不確定性原理の破れを観測し,今後の量子技術、情報技術に大きなインパクトを与えたことが,全国紙五紙を始めマスコミで大きく取り上げられ,大きな社会的反響を呼んだ。 西村は,量子計算における量子版NPに関する次の成果を得た。ある定式化では,NP完全問題に対する「非自明」な効率的検証を行うことが可能であるという事実が,2009年にBlierとTappによって証明され,注目を集めている。非自明さの程度は,YESとNOの2つの計算結果の確率的有意差の程度が多項式の逆数程度であるとされてきたが,本研究では,多項式は線形にできることを証明し,その最適性を明らかにした。 松原は薄葉季路との集合論に関する共同研究で,Pκλ上の非定常イデアルの巨大基数的性質からPκλのskinnierな定常部分集合の存在を証明することに成功した。これより,ある種の基数に対し,非定常イデアルの巨大基数的性質からダイアモンド原理が導けることが示された。 ブシェーミは,量子測定の間の「情報価値」に基づく順序付けの問題の研究において,統計的決定理論におけるモデル比較の理論を量子統計的決定理論に拡張することに成功し,統計的十分性に関するいくつかの同値条件を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
量子情報理論と量子計算理論に新しい数学的方法を開発し,量子情報技術の開発,情報・ナノテクノロジー関連産業,文化などにも幅広いインパクトを与えることを目的としてきたが、現代物理学の根本原理とされてきた不確定性原理を書き替える実証的成果を導き,Nature Physicsという権威ある学術誌にその成果が掲載され、今後の量子技術,情報技術に大きなインパクトを与えたことが社会的にも広く注目を集めた。
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