2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21244007
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小澤 正直 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40126313)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 治道 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (70433323)
松原 洋 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (30242788)
浜田 充 玉川大学, 付置研究所, 教授 (10407679)
神保 雅一 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (50103049)
|
Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 量子情報 / 量子測定 / 量子計算 / 量子符号 / 量子集合論 |
Research Abstract |
1. スピン測定における測定誤差と擾乱の関係について理論的研究を行い,3状態法と弱測定法による誤差と擾乱の測定法の間に存在する同等関係を明らかにし,また,2004年にGarretsonらによって弱測定で擾乱を計測するために提案された関係式が正しくないことを示す反例を明らかにした.この理論的成果に基づいて,東北大学と共同で,光学的偏光測定における誤差と擾乱の関係を3状態法,及び,弱測定法によって実験的に調べ,実験パラメータの広い範囲にわたり,ハイゼンベルクの不等式の不成立と,小澤の不等式の成立を観測した.また,ウィーン工科大学と共同で,実験パラメータの昨年度の発表より広い範囲にわたり,同様の結論を導いた. 2. 昨年度に引き続き量子アルゴリズムや量子計算量クラスについて研究を進めた.とくに量子計算量クラスについては,NPの量子版の誤り確率に対するロバスト性について研究し,証明がNP同様に古典情報であるような量子版NP(Quantum-Classical Merlin-Arthur proof systems)は,問題の答えがNoの場合だけ誤りを生じるような制約されたサブクラスに一致することを明らかにした. 3. 量子誤り訂正符号の構成法,および量子誤り訂正符号におけるエンコード・デコード操作を含む量子情報処理一般に関する基礎的な成果を得た.後者の成果は量子ビット系のユニタリ演算の実現可能性に関する基礎的な定理とその応用である. 4. 量子測定に必要なリソースを情報理論的観点から解析し,量子測定を,被測定系である量子系から測定値の出力系である古典系への通信路として模倣するために必要な古典的リソース(古典通信と共有されたランダム性)を明らかにする一連の符号化定理を得た.また,量子非局所性の概念と量子縺れの概念の同等性を極めて一般的な定式化の下で証明することに成功した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,これまで申請者が独自に開発してきた量子測定理論と量子集合論を軸に,量子情報の数学的基礎を確立するための新しい数学的方法を開発し,数学,量子物理学,情報科学の境界に新しい学問分野を展開して,量子情報技術の開発,情報・ナノテクノロジー関連産業,文化などにも幅広いインパクトを与えることを目指すものであり,この目標のために,量子集合論,量子測定理論,量子計算理論,量子符号理論の研究グループからなる研究組織を構成し,量子情報の数学的基礎を有機的に明らかにする計画である. 本研究では,量子集合論の研究において,量子集合論内の「同一性」の概念から非可換な物理量の間の完全相関という新しい概念を導き,それを用いて「非可換な物理量が同時測定可能な状態がある」ことを理論的に明らかにした.これは,物理量の「可換性」と「同時測定可能性」が同等であるという,長年信じられてきた定説を覆す,画期的な結論である.この結論を定量的に裏付けるために,2003年に発見した小澤の不等式の検証理論に取りかかった.スピン測定における誤差と擾乱の理論を構築し,制御パラメータの広い範囲で小澤の不等式が成立するが従来のハイゼンベルクの不等式が成立しない状況を突き止め,それを実験で検証する方法を考案した.ウィーン工科大と共同で中性子のスピン測定でこの方法を実現させ,この状況を実験的に検証した.Nature Physics にその成果が掲載され,今後の量子技術,情報技術に大きなインパクトを与えたことが社会的にも広く注目を集めた.その後の研究では更に光学的偏光測定においても同様の実証を成功させ,量子情報技術への展開に道をつけた.さらに,量子計算及び量子暗号の分野の研究も順調に進展し,このような新しい物理学的成果を情報技術に応用し,新しい産業の創出に向けての学術的基礎研究が当初の計画以上に進展している.
|
Strategy for Future Research Activity |
小澤の不等式の検証実験は,2012年1月の本研究グループの発表に続き,2012年9月にカナダのSteinbergのグループが発表して,Nature News, BBC News, NBC News 等でとりあげられた.また最近,オーストラリアのWisemanのグループから新しい実験の提案が発表されるなど,激しい研究競争が始まっている.我が国で発見され,第1検証実験を日本人グループで成功させた理論の優位性を保つためには,研究の焦点を小澤の不等式とその検証実験に組み替え,更に,量子暗号への応用,量子論の基礎原理再構築など想定される展開で先行する必要がある.とりわけ,実証実験では,光学系測定に関する検証実験を進展させる計画である.また,量子論の基礎原理再構築のためには,不確定性原理と情報熱力学第2法則の関係に関する課題を取り入れ,Ozawaの不確定性原理,Buscemi-Hayashi-Horodecki (BHH) (2008) の情報・擾乱トレードオフ,Sagawa-Ueda (2009)の情報熱力学第2法則の間の理論的相互関係を明らかにする方策である.具体的には,Groenewold (1971)で射影測定の場合に導入され,Ozawa (1986)によって一般の量子インストルメントに拡張された Groenewold-Ozawa 情報量,及び,それから派生して BHH (2008) で導入され,Sagawa-Ueda (2009) でも独立に扱われた量子古典相互情報量は密接な関連がある.実際,Sagawa-Ueda (2009) のケースでは,両者は一致している.まず,それらの数学的定式化を整備して,一般的な取り扱いを可能にし,詳しい関係を明らかにする計画である.
|
Research Products
(51 results)