Research Abstract |
将来,実施されるであろう諫早湾開門調査を念頭に,湾内の水質・底質環境に関する詳細な実態調査を行い,開門後の変化を解明するためのベンチマークとなり得る環境データ収集し,現況環境特性を明らかにした. 1)諫早湾の海底堆積物モデルを開発し,南北排水門近くの2地点の底質鉛直分布を求め観測値と比較した.その結果,有機物の沈降フラックスや分解速度に両地点で差があることを明らかにした.2)九州農政局が測得している水質の同時多点常時観測データを解析し,諫早湾内の低酸素水塊の発生と発達プロセスを調べた.その結果,諫早湾内の低酸素水塊は小長井沖付近で発生し,諫早湾全体に大規模化する傾向にあることを明らかにした.また,小長井沖の水塊が高酸素状態にあれは,約90%の確率で諫早湾全域は高酸素状態にあること,排水門近くの水塊が低酸素状態にある場合,約70%の確率で諫早湾全域は低酸素状態にあることを明らかにした.3)諫早干拓締切り前後での最も大きな変化は,締切り後調整池の水環境が急速に悪化し,その調整池から排水を通じてfluxが諫早湾に流れ込んで環境悪化を引き起こし,更にそれが諫早湾を通して有明海本体部分に定常的に流れ込んでいることである.シミュレーションによりこのfluxが有明海奥部を含む有明海全体に大きな影響を与えていることを確認した.4)本明川流域の過去30~50年間の長期的な環境変化を解析し,気温・流量が上昇傾向に,TN負荷が下降傾向にあることを明らかにした.また,潮受け堤防建設後に調整池のCOD,SS,T-N,T-Pの上昇とDINの減少が確認され,浮遊藻類増殖に適した環境が作り出されていることを明らかにした.5)室内移動床実験により,波作用下の特徴的な地形であるトラフやバーを再現し,それら近傍での底質内部の空隙や密度構造の時空間変化をX線CT法により調べた.その結果,底質の撹乱深さを推定することが可能であり,バーとトラフではその大きさが異なること,地形変化が定常に至るまでにその深さは時間変動することを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトの目的は,諫早湾において将来実施されるであろう南北排水門の開門を睨み,開門後の変化を明らかにするためのベンチマークとなり得るデータを収集することにある.つまり現在の諫早湾全域の水質・底質環境特性の詳細を手中に収めることにある.3年間の研究成果は,以下の通りであり,諫早湾に関してこれまで知られていなかった様々な物理・化学的環境特性を明らかにした. ・諫早湾における底泥環境の総合調査を行い,底泥粒径,含有有機物量,酸化還元電位,酸揮発性硫化物,クロロフィルa,フェオフィチン,間隙水中の栄養塩濃度等を測定した.諫早湾奥部における底泥中にはかなりの有機物が堆積し,嫌気状態となり硫酸還元状態が進んでいる. ・潮受け堤防建設後,諫早湾内の底泥中に含まれる硫化物は増加し,底質環境は悪化している. ・溶存酸素濃度(DO)の経時変化と室内実験結果から,諫早湾の底泥の酸素消費速度は0.03m/h程度である. ・諫早湾においては,南南西の風と北北東の風が卓越することを明らかにした.南南西の風は多良岳と雲仙岳によって縮流され,諫早湾上で風速は1.2倍に増加する. ・諫早湾に大規模で強い塩淡成層が形成する.それは筑後川をはじめとして有明海に流れ込む河川水の流入によるもので,調整池からの淡水排水とはほとんど無関係である. ・南南西の風が連吹する時は,諫早湾内の低塩分水塊は有明海側に,北北東の風が連吹する時は,低塩分水塊は諫早湾奥部に輸送される. ・諫早湾では,低酸素水塊は小長井沖で発生し,湾全体に大規模化する傾向にある.小長井沖で低酸素水塊が発生していなければ,約80%の確率で諫早湾全体は高酸素状態にある.一方,潮受け堤防付近で低酸素水塊が認められれば,70%の確率で湾全域が低酸素状態にある. ・潮受け堤防付近に低酸素水塊のフロントが形成される.南南西の風が連吹すると,潮受け堤防付近で低酸素水塊が湧昇する.北北東の風が連吹すると潮受け堤防付近の低酸素化は解消する。 ・衛星画像データから,諫早湾・調整池両水域の水温,Chl-a濃度を求める高精度の推定式を構築した.また,衛星画像データと現地観測データを組み合わせることで,表層並びに水域内部の物質の動態を把握することを可能にした. ・現地観測データとリモートセンシングを組み合わせることで,お互いの長所を活かした水質モニタリング手法を確立した. ・本明川流域の過去30~50年間の長期的な環境変化を解析し,気温・流量が上昇傾向,TN負荷が下降傾向にあり,潮受け堤防建設後に調整池のCOD・SS・T-N・T-Pの上昇とDINの減少を確認した ・諫早干拓締切り前後での最も大きな変化は,締切り後調整池の水環境が急速に悪化し,その調整池から排水を通じてfluxが諫早湾に流れ込んで環境悪化を引き起こし,更にそれが諫早湾を通して有明海本体部分に定常的に流れ込んでいることであることを示し,シミュレーションによりこのfluxが有明海奥部を含む有明海全体に大きな影響を与えていることを確認した. 開門調査が実施された場合,諫早湾に関するこれらの情報は,諫早湾環境悪化の原因究明に大いに貢献するものと確信する.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,来る開門調査に備えるために,現地観測,九州農政局のデータ解析,3次元流動モデルを用いた数値シミュレーションを行い,より一層詳細に諫早湾内の水質・底質環境の広域特性を解明する予定である.また,開門することにより諫早湾内の水質・底質環境がどのように変化するかを予測するシミュレーションモデルを構築する予定である.本プロジェクトチームによるこれまでの研究実績は非常に高く,研究成果は開門調査に於いて大いに役立つものと思われる.開門調査は2012年度か或いは翌年の2013年度に実施されることになると推測される.本研究プロジェクトは当初の計画以上に進んでおり,2013年度は「研究計画最終年度における前年度応募」として基盤研究(S)に応募する予定である.
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