2011 Fiscal Year Annual Research Report
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21247009
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
蟻川 謙太郎 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20167232)
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Keywords | 神経行動学 / 昆虫 / 視覚系 / 分光感度 / 行動 / 複眼 / 色覚 / 視細胞 |
Research Abstract |
チョウ類色覚系の進化学的解析:これまでに4種のオプシン(CeUV, CeV1, CeV2, CeL)が同定されていたモンキチョウの複眼に、新たに青受容型オプシンCeBを発見した。CeBはCeV1とCeV2と共に、タイプ2個眼の視細胞2個に共発現していた。発現パターンに性差はなかった。一方、モンキチョウ複眼からは4種の青受容細胞の感度が記録されており、内2種が♂、2種は♀特異的で、この生理機構は不明だった。CeBの発見と合わせ、蛍光フィルター色素の分布に性差があることも発見、これらの情報を総合することで、青受容細胞の生成機構が完全に理解できた。 モンキチョウでは赤受容細胞にも著しい多様性がある。全部で6種のうち3種が♂、3種が♀特異的である。♂♀とも、赤受容細胞には緑受容型のCeLが発現しており、赤感受性は感桿周囲の赤色素のフィルター効果による。性差は、♀のタイプ2個眼の赤色素の吸収が他よりも50 nm程短波長にシフトしたものであることで説明できた。 CeBの発見、蛍光色素と赤色素の性差の発見は当初の予想を大きく覆すもので、モンキチョウ複眼の細胞構成を明確に記述する成果に繋がった。予想以上の成果が得られた。 行動学的解析:ある色の円板で蜜を得ることを学習したアゲハは、円板を探索して発見し、着地しようとする。円板と背景の明度コントラストが十分であるときは着地して蜜を吸おうとするが、明度コントラストが十分でないと円板に接近はするものの実際に着地することはできないことが分かった。明度コントラストの受容には、色覚と同じく、紫外・青・緑・赤の受容細胞が関与しているらしい。また、アゲハは求蜜に際し、偏光の振動面を識別することも分った。振動面の異なる偏光をどのように識別しているかを行動実験で詳細に調べたところ、明るさの違いとして認識していることが分った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究は、脳機能の構築原理を解明する試みの一環として位置づけている。具体的にはチョウ類の色覚系を対象とし、チョウ類における色覚系の進化過程を探ることと、アゲハ色覚の神経メカニズムを神経行動学的に詳細に調べることに焦点を当てている。進化過程の研究では、アゲハ以外のチョウ類複眼を対象に、オプシンmRNA及び発現視細胞の同定、複眼構造の生理光学的解析、分光感度生成機構の種間比較を行なうこととしており、これまでにアゲハチョウ科10種、シロチョウ科5種のオプシンを同定し、とくにモンキチョウについては複眼細胞構成の詳細を明らかにした。上述の新発見もあって、複眼進化過程の解明に大きく一歩近づいたと言える。アゲハにおける神経メカニズムの研究では、色覚機能の行動学的解析、視葉板における波長情報処理機構の解析、色覚情報処理経路の解剖学的解析を行うこととしており、これまでに中枢の解剖学的解析と視葉板での細胞内記録法の確立をほぼ終え、今年は行動学的研究としてターゲットへの着地に4種の視細胞がつくる明度コントラストが重要であることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に向け、アゲハにおけるメカニズム研究では視葉板に主力を傾注して、LMCの神経伝達物質の同定、視細胞末端およびLMC軸索における分光感度の測定などを行う。以て、視葉板における情報処理過程の理解に迫る計画である。さらに、アゲハ以外の種を用いた複眼細胞構成の解析を進め、とくに視物質重複によって新たに獲得された視物質が視覚機能とどう関係しているか、個眼の重層構造がどのような過程を経て進化してきたのかを解明する計画である。
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Research Products
(20 results)