2012 Fiscal Year Annual Research Report
うつ病のすべてがわかる和漢薬:発病機序の分子的解明から新規抗うつ薬開発まで
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21249047
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
東田 道久 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 准教授 (20207525)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小松 かつ子 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 教授 (50225570)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | MRI / 薬物感受性 / 統合薬理学 / 病態モデル動物 / テーラーメード医療 / 上行性神経 / 消化器系 / 中枢神経 |
Research Abstract |
前年度の補中益気湯感受性および非感受性ヒト脳およびモデル動物でのMRIによる検討結果から、薬物非感受性脳ではむしろ薬物投与により脳全体が活性化され、感受性脳では全体的にそれが抑制制御されることがわかった。このことより、①非特異的な脳活性化と、②それに選択性を与える抑制性制御、のバランスが補中益気湯の抗うつ作用発現に寄与しているとの仮説を立て、検討を行った。うつ病モデル動物を用いたMRI実験から、22年度に示した共通5生薬群 (共5) を投与した際には、動物の補中益気湯の感受性とは関係なく、脳全体の活性化がみられ、①の機能は共5が担うことが推定された。補中益気湯投与の際には、鎮静状態下の動物で一過性の強い呼吸抑制が発生した。また、補中益気湯全体は摘出腸管の収縮を引き起こし、一方典型的抗うつ薬は逆に強い持続性の腸管弛緩作用を示すこともわかった。これらの点ならびにその他の様々な知見から、補中益気湯の感受性には22年度に示した特有5生薬群(特5) の消化器系への直接作用と、その後の上行神経刺激による信号が②の選択性に関与する可能性を新たに想定した。また、補中益気湯が臨床的には抗うつ薬としてあまり用いられていない理由として、事前に処方されている典型的抗うつ薬による消化器系の抑制によって補中益気湯の個性である特5の作用が阻害されていることが考えられた。共5は十全大補湯や帰脾湯にも含まれている。各和漢処方に特有の構成生薬群が、共5に固有の制御を与えることで抗うつ効果に関する個性を規定していると思われる。漢方研究は一定の条件下、ヒトを用いた実験を行うことが可能である。そこで、上述の点をヒトのMRI解析により検討するため、一部研究費を年度繰り越し、新たに分担者として加わった和漢臨床医を軸に、ヒトでの実験を模索した。知識面、倫理面、標準化基準の面などの様々な問題点が明らかとなってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
MRI実験をヒトとモデル動物に適応することにより、当初想定し得なかった興味ある知見が得られてきた。うつ病治療薬は必ずしも脳に作用するものには限定されない可能性がある。これは全く新しい視点であるが、一方、漢方的全体視点とは合致する。和漢薬でうつ病を理解するための強力な視点となる。そこで、当初の予定から一部実験計画を変更し、ヒトを中心に知見を得ることを目指し、そのための様々な情報収集に努めた。その結果、本研究課題の遂行上、下記に示す様な新たな解決すべき点も明らかとなってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 幅広くヒトでの和漢薬の作用に関する知見を収集する方向を目指す。そのためには、① 個々の研究における方向性をより明確にし、倫理面を解決しておくことはもちろんであるが、それに加えて、② テーラーメード医療の原点とも言うべき和漢薬治療のその「テーラーメード」の部分をどのように把握・分類するか、また、③ MRI測定に関しての様々な測定条件等の企画化をどのように実現するかを検討することも重要である。これらの点を目指した研究を推進する。その実現によっては、将来的に、和漢薬治療およびうつ病治療に関するビックデーターがもたらされ、有効利用されることにつながる。2) モデル動物を用いた実験においても、目的とする情報を得るための規格化が必要である。富山大学の小動物用MRI装置では目的は達成できないため、他機関の協力先を求めて実現する。麻酔下ではない (出来れば覚醒下) 実験条件の検討も必要である。ヒトで得られた知見とモデル動物での知見を比較しつつ、モデル動物でしかできない有効生薬、その組み合わせの妙、有効成分、既成抗うつ薬の影響などに関する検討を、3D-HPLCによる成分データーとの比較検討しながら推進する。これらの検討では、動物を薬物感受性に分けて個別化し使いまわすことになる。それは動物の節約と、統計学に頼りきらない新しい統合薬理学の実現をもたらすこととなる。さらに 3) in vitro 系による遺伝子発現やRNA修飾等に関する分子的な検討も加える。
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Research Products
(5 results)