2011 Fiscal Year Annual Research Report
脂質二分子膜でのドラッグの分配と会合のMDとNMRによる研究
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21300111
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松林 伸幸 京都大学, 化学研究所, 准教授 (20281107)
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Keywords | 脂質二重膜 / 分子動力学シミュレーション / NMR / 曲率 / 分布関数 / 自由エネルギー / 溶液理論 / ナフタレン誘導体 |
Research Abstract |
溶液NMR法およびMD計算は,膜中の小分子の位置やダイナミクスの原子レベル解析に適した手法である。本年度は,異なる極性の小分子を含む生体モデル膜について核オーバーハウザー効果(NOE)測定とMD計算を行った。これらを相補的に組み合わせることにより,脂質膜中における小分子の位置やダイナミクスを議論した。昨年度と同様に、リン脂質は DMPCを、小分子として,疎水性である1-methylnaphthaleneおよび親水基をもつ1-naphtholを用いた。NOE測定には,直径の大きい膜のブロードなプロトンシグナルを減衰させるtransient NOE-SE法を用いた。これによって、溶液状態の数百nm直径のLUV中における疎水性小分子の幅広い分布の直接観測に成功した。NOE測定によって、親水基末端照射と疎水基末端照射の場合の、1-naphtholおよび1-methylnaphthaleneの各プロトンサイトの緩和速度定数値を決定し、疎水性小分子がリン脂質親水部とも近接するという結果を得た.これは、以前のMD研究による指摘と一致した。これらのナフタレン誘導体の膜結合モードのより詳細な解析を行うため、MDシミュレーションを相補的に組み合わせ、NOE緩和速度定数に対する距離と相関時間の寄与を分割した。親水基をもつ1-naphtholは、親水基をもたない1-methylnaphthaleneよりも膜中の運動が遅く、そのOH基をリン脂質の親水基側に向ける弱い配向性をもつことが明らかになった。一方で、親水基をもたない1-methylnaphthaleneの配向性については、本研究から明らかな結論は下せなかった。脂質同士のNOEとは異なり、NOE緩和速度定数は距離情報を主に反映することが分かった。つまり、小分子の運動のタイムスケールは、リン脂質の運動に比べてサイト依存性が弱く、均一である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
transient NOE-SE法は、前年度までに開発した手法である。直径の大きい膜のブロードなプロトンシグナルを減衰させることで、これまで定量的なデータを得ることが難しかった平面膜系のNOEシグナルを得ることができる。この手法を、低分子と脂質膜の相互作用解析に適用することは、当初の予定通りである。シグナルが弱いために、多くの積算時間が必要とされたが、概ね当初のスケジュールに沿って、実験が進行した.さらに、実験結果とMDシミュレーションを相補的に組合せることで、曖昧さのない分子レベル情報を取得することは、本研究の主題の一つである。特に、MD計算で、NOE緩和速度定数を支配する時間相関関数を解析し,ナフタレン誘導体の膜中における位置やダイナミクスを議論するには,NOE緩和速度定数に対する距離と相関時間の項を定量的に分割する必要がある。このような解析は、NMR実験とMD計算の併用によって、初めて可能になるものである。MDを行うと、脂質膜とそこに結合した分子の間の隣接原子の同定、および、隣接している時間を計算できる。これまでに行ったNMRとMDの相補的解析で明らかになったことは、実験的なNOEの正しい解釈には、空間的な隣接情報のみならず、寿命の情報が必要であることである。これは、当初は予見していなかった知見である。この知見は、NOE解釈の「常識」を大きく外れる場合を含むものであり、その発見に少々時間がかかった。そのため、扱う物質系の「量」としては、当初予定より遅れているが、新知見の質の高さは、量的進展の遅れを凌駕するものであると考えている。最終年度は、膜貫通タンパク質を含む系や混合膜系の解析を予定しているが、それらの正しい解析のために必要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
膜貫通タンパク質のような比較的大きな分子と脂質膜の相互作用解析が、次のステップにある。こちらについては、MD解析を、準備的に先行させている。1次元配列がTLIIFGVMAGVIGTILLIである膜貫通ペプチドと脂質膜の全原子MDシミュレーションを行った。安定構造とそれにもたらす相互作用の同定のために、準備的な自由エネルギー解析に着手している。自由エネルギー計算には、エネルギー表示法を用いた.ペプチドのDMPC膜への結合の自由エネルギー変化を計算する。エネルギー表示法では、溶媒種と扱われるのはDMPCと水、溶質はペプチドそのものである。溶液系のMDから、ペプチド-DMPCおよびペプチド-水の対ポテンシャルエネルギー分布関数を得る。また、DMPCと水のみからなる参照溶媒系のMDによって、ペプチド-DMPCおよびペプチド-水の対ポテンシャルエネルギーの状態密度と相関行列を得る。ペプチドのinsertionを行う際は、孤立条件(無溶媒条件)でのペプチドのMDをあらかじめ行っておき、孤立ペプチドの配置分布に則った。このような手法で、自由エネルギー解析を行い、ペプチド結合の自由エネルギーをDMPCからの寄与と水からの寄与に分割した。予備的計算によると、水からの寄与は決して無視できないことが分かっている。事実、ペプチド末端の親水部は強く水和されており、nsの間、水和殻に留まっている水分子も見出されている。バルク水内での溶媒和自由エネルギーの計算を行うことで、膜結合の支配因子を明らかにするとともに、膜内で配向を(人為的)に変えたときとの比較によって、ペプチド-DMPCおよびペプチド-水の相互作用のバランスを調べる予定である。実は、上に述べた準備的計算が、計算としては最も難しいものであるため、ここに述べた計算によって、研究を進めることができると考えている。
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[Journal Article] Hydration structure around CO2 captured in aqueous amine solutions observed by high energy X-ray scattering2011
Author(s)
H. Deguchi, Y. Kubota, H. Furukawa, Y. Yagi, Y. Imai, M.Tatsumi, N. Yamazaki, N. Watari, T. Hirata, N. Matubayasi, Y. Kameda
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Journal Title
Int. J. Greenhouse Gas Control
Volume: 5
Pages: 1533-1539
DOI
Peer Reviewed
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