2011 Fiscal Year Annual Research Report
脳神経科学と社会の相互作用──事例研究と枠組み構築──
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21300321
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐倉 統 東京大学, 大学院情報学環, 教授 (00251752)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入來 篤史 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 象徴概念発達研究チーム・チームリーダー (70184843)
高木 美也子 日本大学, 付置研究所, 教授 (00149337)
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Keywords | 脳神経倫理 / 科学技術社会論 / 科学技術コミュニケーション / リスク・コミュニケーション / 福島第一原発事故 / 科学技術ガバナンス |
Research Abstract |
計画どおり、東日本大震災と福島第一原発事故によって生じた、科学技術と社会のコミュニケーション不全に関するデータ収集と解析をおこない、脳神経科学と社会の関係と合わせて、より広い見地から日本の科学技術と社会の関係について考察を加え、成果の一端を2012年4月にフィレンツェで開催された International Conference of Public Communicatin of Science and Technology (PCST) にて報告した。海外各国からの関心も高く、ヨーロッパや東アジア各国の研究者らと、情報交換をすることができた。 その結果、「脳神経科学と社会」および「脳神経科学と倫理」というという視点からだけでなく、「科学技術情報が社会におけるリスク認知にどのように影響するか」という視点をそこにどのように組み込むことができるか、多角的な検討を加える必要性が新たな課題として明確になった。平常時の科学技術コミュニケーションと、緊急時のリスク・コミュニケーションの関係と言い換えることもできる問題である。複雑ではあるが、整理して位置づける必要がある。その点について検討した論稿を発表した。しかし課題としてはさらに分析と検討を要する。 脳科学と震災との比較からは、専門家への信頼感と不信感がコミュニケーションが円滑に進むかどうかを規定しているという共通点が見られたものの、リスクの程度が大きくことなるため、単純な比較は難しいことが判明した。むしろ、専門家同士の意見の相違に焦点をあて、それらがなぜ生じるのか、それらが社会にどのような影響を及ぼすのかを分析することが有益だと判断された。これらは平成23年度以降の研究活動に組み込むことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初申請書に記した目標は、おおむね達成できている。とくに、BMI の倫理問題における論点抽出ワークショップと、脳トレ言説に関する新聞分析は成果をあげ、学会等で発表した。理研BSI 成立の歴史についても一定の成果をあげた。 また、計画どおり、東日本大震災と福島第一原発事故によって生じた、科学技術と社会のコミュニケーション不全に関するデータ収集と解析をおこない、脳神経科学と社会の関係と合わせて、より広い見地から日本の科学技術と社会の関係について考察を加え、成果の一端を2012年4月にフィレンツェで開催された International Conference of Public Communicatin of Science and Technology (PCST) にて報告した。 その他、成果は英文原著論文、和文総説論文、和文考察論文などとして発表することができた(業績リスト参照)。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、「脳神経科学と倫理」、「脳神経科学と社会」の二つの領域において、実証的研究と理論的枠組み構築を推進する。とくに、今までは日本の事情を集中して分析していたが、より広い視点から科学技術のガバナンスを考えるために国際比較が不可欠である。脳神経倫理の世界トップであるカナダと、日本と同じく東アジアに位置し脳神経倫理についても研究プロジェクトが進行している韓国とを対象に、比較研究をおこなう。 韓国は日本とほぼ同じ時期(2000年代後半)から、脳神経倫理の研究プロジェクト(「脳神経科学と人文学」)がソウル国立大学を中心に始まり、我々とも連携しながら、活動を展開している。日本と同じく儒教の伝統をもつ国でありながら、キリスト教も大きな勢力をもっており、日本との共通点および相違点を踏まえつつ、東アジア文化圏を視野に入れた脳神経科学の特徴を考察するためには適切な比較対象である。 カナダは、世界トップ水準の脳神経倫理の研究拠点を複数有し、国際学会の拠点もあるなど、まさに世界の脳神経倫理の活動中心となっている。しかし2000年ごろに脳神経倫理が英語圏で勃興してきたときは、むしろアメリカの研究者や研究機関が中心であった。なぜ短期間にカナダが脳神経倫理のトップに立つことができたのか、科学技術政策の仕組みや研究現場の状況を調査し、日本の科学技術ガバナンスにフィードバックする。
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Research Products
(17 results)