2011 Fiscal Year Annual Research Report
単一分子エレクトロニクスの創成に向けて-理論からの提言
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21310086
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
上羽 弘 富山大学, 大学院・理工学研究部(工学), 教授 (70019214)
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / ナノ構造 / 表面反応 / 分子操作 / 振動励起 / 分子スイッチ |
Research Abstract |
物質中におけるプロトン(水素イオン、H+)の移動は化学、生物学において重要な役割を果たしている。特に水素結合系におけるプロトン移動は、有機化学反応における酸・塩基反応や、生体中の酵素触媒反応の反応素過程として極めて重要であるが、今から200年前にグロータスがプロトンリレー移動の考えを提唱して以来、その分子レベルでの詳細はまだ解明されていない。京都大学理学研究科奥山准教授らの実験チームが1個の水分子(H2O)に隣接して数個の水酸基(OH)が並ぶ一次元鎖構造を銅基板上に作製し、端の水分子に適切なエネルギーをもった電子を走査トンネル顕微鏡から当てると、水分子を構成する1個の水素原子(プロトン)が次々と隣のOH分子に乗り移り、最終的には端にあるOHがH2Oに変化する単一分子間のプロトン移動を世界で初めて観測することに成功した実験結果の、物理的機構を理論的に明らかにした。 200年以上も前に提唱された水素結合系でのプロトン移動に関するグロータス機構の解明に新たな糸口を与える極めて重要であるとともに、原子移動にともなう単一ビット情報伝達を利用した分子コンピューターへの道を開く可能性も提案したこの研究成果はNature Materialsに掲載され、世界的に高い評価を得た。 また、同じ銅基板上に作製された水酸基ダイマーが走査トンネル顕微鏡からのトンネル電子によるO-H伸縮振動励起によって高コンダクタンス状態と低コンダクタンス状態の配向を可逆的に変化させることで非線形電流一電圧特性(特に負性コンダクタンスの発現)を説明する理論を提案し、分子スイッチング素子の可能性を示唆した。この研究はHをDで交換したOH(D)ダイマーの実験結果を受け、次年度も継続し負性コンダクタンスの発現機構の詳細な解明を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
もっとも軽い元素である水素原子(プロトン)の連続リレー移動反応の微視的機構を世界で初めて確立した。振動励起によって単一分子がその吸着配向を変化させることで、高低コンダクタンス状態の配向を可逆的をとり、スイッチング機能が発現することの理論構築を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の「研究の目的」と「研究実施計画」に従って、最終年度は"単一分子エレクトロニクスの創成に向けて" 1)1991年にEiglerらにる単一原子運動による原子スイッチの実現に続いて、1998年にHoらによってアセチレン分子の回転運動による分子スイッチが初めて実現した。未だ解明されていないこの素過程を理論的に明らかにする。 2)電極で挟まれた単一分子において電流による発熱とその散逸の理論構築を伝搬性フォノンを経由した熱散逸の素過程を中心に調べ、分子素子の実現に向けて鍵となる放熱の問題に対して理論からの提言を試みる。
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