2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21320054
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
吉川 信 群馬大学, 教育学部, 教授 (70243615)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大島 由紀夫 東京海洋大学, 海洋工学部, 教授 (10113995)
戸田 勉 山梨英和大学, 人間文化学部, 教授 (90217505)
河原 真也 西南学院大学, 文学部, 准教授 (80454924)
桃尾 美佳 専修大学, 経済学部, 准教授 (80445163)
田多良 俊樹 中村学園大学, 流通科学部, 講師 (40510467)
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Keywords | アイルランド / 文学 / 小説 / 亡霊 / 近代 / ゴシック |
Research Abstract |
本年度は「世紀転換期のファンタズム」を主題とし、主として19世紀から20世紀の作家、Charles Robert Maturin、Joseph Sheridan Le Fanu、Bram Stoker、William Butler Yeats、James Joyceを扱った。 MaturinによるMalmoth the Wondererは、プロテスタントのアイルランド人を主人公とした最初のゴシック小説であるが、「カトリシズムの悪」を暴き立てるのみならず、帝国による植民地搾取のモチーフにも溢れている。ローマカトリック教会の「帝国主義」に加えて、大英帝国のあり方自体が問題視されている点は、新たに「アイリッシュ・ゴシック」と呼べるジャンルが生まれたことの証左となろう。Le Fanuの吸血鬼小説"Carmilla"は、スティリアを舞台としながらも、その実19世紀半ばの、大飢饉後のアイルランド西部を彷彿させる。女吸血鬼カーミラが見せる濃厚なレズビアニズムは、土地が減少して行くのみならず、子孫繁栄の望みも断たれた、19世紀後半のアングロ=アイリッシュの不安と苦悩を、如実に反映したものであることが明らかとなった。またStokerによるDraculaにおいては、植民者のアイデンティティ不安が怪物の両義性に表象される。吸血鬼ドラキュラは帝国主義的侵略者であるとともに、逆に植民地からメトロポリスに流入する移民の暗喩とも読めるためである。加えて、吸血鬼に襲われた者もまた吸血鬼と化し、いわば「自己ならぬ他者」へと作り変えられてゆく。アイルランドの吸血鬼小説が描き出すのは、対立の構図が規定する二元論的世界ではなく、侵略者と被侵略者の境界線が限りなく曖昧になる植民地的現実といえる。最後に、神秘主義に傾倒していたYeatsは、「交霊会」を"The Words upon the Pane"で扱い、「自動筆記」への関心をA Visionに結実させた。とかくYeatsとは対照的とされるJoyceにしても、Dublinersですでにゴシック仕立てを活用している。両者の作品において、19世紀末までのゴシック小説の伝統と、モダニズム文学における亡霊という主題が接続されたことは明らかである。
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Research Products
(19 results)