Research Abstract |
本研究計画は,多元的法秩序間の調整メカニズムとして,制度化された恐らく唯一の事例と思われる「ヨーロッパ経済領域(European Economic Area)(以下ではEEAと略称する)」の研究を課題とし,EU法・国際法研究への寄与を目指すものである. 本年度も,第一に,研究の基礎となる文献・資料の系統的調査・収集,第二に,共同研究者相互間での討議による問題意識・研究手法の明確化作業を継続した. 上記第一の点は,本研究のように未開拓の研究領域においては,系統的な文献・資料の収集が不可欠であることに基づく.そのため系統的な検索手段が何よりも必要であるにも拘わらず,EFTA・EEAに対する商業ベースの需要が必ずしも大きくないためか,系統的なEEA文献,EFTA判例評釈文献等の検索手段を見出すことができなかった.その後,EFTA加盟国のリヒテンシュタインからモノグラフが刊行されていることが判明したが,国内に全く所蔵が無いため,ヨーロッパの国際機関の図書館でコピーを入手し,また北欧の国際法専門誌を検索する等,関連文献の入手に努めた. 上記第二の点については,木を見て森を見ないEEA研究にならないようにするために,まずEEAの制度枠組自体の研究を継続することが重要であるため,具体的には,EEAの制度枠組形成の沿革,組織運営の実態等についての研究を継続した.またEFTA裁判所のBaudenbacher長官が来日した機会に,東大で開催されたセミナーにおいて,同長官と討議する機会を得られたことも幸いであった.更に,これらの基本的な理解を,共同研究者が共有するべく,研究会における討論を通じて,研究対象に関する論点を明確化するとともに,EFTA,EEAの制度枠組みに対する理解を深めることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在EEAのEFTA側構成国は,アイスランド,ノルウェー,リヒテンシュタインの3力国のみであり,日本におけるビジネスローにとって,経済的利益という観点から見た重要性は,EC・EUに遠く及ばない.そのため,日本においては,EEAの制度,特にEFTA裁判所の研究は,従来殆どなされていなかった.EC法研究においても,EEA設立条約とEC条約との適合性に関して1991年に出された,EC裁判所の勧告的意見の紹介(中西優美子・IBL 1999)がなされた以外は,殆ど学問的関心の対象とされておらず,国際法研究者の間では,そもそもEEA自体殆ど知られていなかった.また,ヨーロッパにおいてもEEA研究の蓄積は,EC法研究に遠く及ばない.1992年のEEA設立条約の成立直後の研究は,同条約の註釈が中心であった(Jacot-Guillarmod,1992;Norberg,1993)が,EFTA裁判所が,1994年以降判例を形成し始めるにつれ,若干の評釈文献が現れ始めた.その後2000年代に入り,EFTA裁判所の判例コーパスがある程度蓄積されてきたことを背景として,同裁判所の10周年記念論文集(Baudenbacher(ed.),The EFTA Court:Ten years on)が2005年に刊行され,同裁判所のBaudenbacher長官の記念論文集が2007年に刊行されたことが注目される程度である. 従って,本研究の開始時点では,国内外の研究とも緒についたばかりと言って良い状態であり,本研究はほとんどゼロからの出発とならざるをえなかった. そこで,最初の二年ないし三年程度は,EFTA・EEA法の研究環境の整備,制度概要の全体的な理解を最優先課題としてきた.系統的な文献検索,収集方法といった,研究の言わばイロハから始め,EEAの制度概要にいたる基本的な知識を得ることは,なかなか大変であったが,EFTA裁判所のBaudenbacher長官の来日の際の質疑,同長官の御好意によるEFTA裁判所での調査等により,ほぼ当初の計画通りの研究の進展を見ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度以降の研究の柱は二つ,即ち第一に,研究の基礎となる文献・資料の系統的調査・収集の継続,第二に共同研究者相互間での討議に基づく具体的なEEA法分析および研究成果取りまとめ作業の開始である. 第一に,現在までと同様,研究の基礎となる文献・資料の系統的調査・収集を継続する.予期に反して,EEA法,EFTA裁判所判例に特化した既成の文献検索ツールが存在せず,地道に関係国毎の文献検索を行うことの重要性が明らかとなったからである.特に,従来日本であまり文献収集の対象となっていなかったスイス,リヒテンシュタイン等のEFTA諸国について系統的調査・収集を継続したい.残念ながら性質上市場性の薄いこの分野の文献は,刊行からさほど年月が経過していない場合でも既に入手不可能となっている場合が少なくないため,そのような場合には,ヨーロッパの研究機関の図書館等の所蔵をも調査の上,コピーを入手することも考えている. 第二に,共同研究者相互間での討議による問題意識・研究手法の明確化作業をうけて,更に具体的なEEAの制度形成に関する研究,EFTA裁判所判例の分析作業を始め、今年度からは取りまとめの準備に入りたい.これまでは,日本では殆ど研究されておらずまた知られてもいなかったため,まずEEAの制度概要自体について理解することを目標としてきた.今後は,これまでに得た制度概要に関する知見に基づき,より具体的な分析作業を始めることにしたい.現時点では,伊藤・須網が,EFTA裁判所判例の分析となる具体的なテーマを,濱本がEEAの制度形成過程を,寺谷が複数の国際人権保護システム競合・交錯問題を,それぞれ探求する予定である.EFTA裁判所のBaudenbacher長官がここ数年ほぼ毎年来日しているので,その機会に更に共同研究者相互間で議論を深めたいと考えている.
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