2012 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症の心理化フィルタ仮説にもとづく療育支援ロボットの実践的評価と仮説検証
Project/Area Number |
21330154
|
Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
小嶋 秀樹 宮城大学, 事業構想学部, 教授 (70358894)
|
Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 発達障害 / 自閉症 / ロボット / インタラクション / 行動分析 |
Research Abstract |
本研究は,自閉症療育施設(滋賀など)と共同で,コミュニケーションロボットを使った療育支援の可能性を探り,また背後にある自閉症の発症メカニズムを解明することを目的としている. 平成24年度は,まず療育施設でのインタラクション観察準備を行った.この年度から,従来から観察を続けている自閉症・広汎性発達障害をもつ3~4歳の子どもたちの通園クラスに加え,2~3歳の非典型の発達障害の子どもたちの通園クラスでのインタラクション観察を加えた.そのため,2台目のロボットの整備や,画像・音声の伝送システムや収録システムを新しく構築し,2カ所でほぼ同じ条件でのインタラクション観察を可能にした. 療育施設でのインタラクション観察は,療育士との十分なラポールが形成され,個別の事前検査を終えた6月から開始した.1度の観察出張で,逐次,2つのクラスでのインタラクション観察を(状況が許す限り)実施し,効率的な観察・収録を行うことができた.自閉症のクラスは7組(対象児・保護者・療育士)前後,非典型発達障害のクラスは9組前後を対象とし,合計で18セッション(約50時間分)の行動データを収録した.また,これと並行して,実験室条件で7人の自閉症児に,動画像(人が目的的行動を行う様子など)に対する視線を,視線計測装置 Tobii X120 を用いて計測し,自閉症の知覚粒度の違いを推定することを試みた. このインタラクション観察で収録したデータは,並行作業で予備分析を行っている.その中から,自閉症が知覚スタイルの違い(目的的行為のレベルを見ずに,物理的変化のレベルに注目すること)が明らかになってきた.この考えをより詳細化し,国際会議や原著論文として発表した.本研究のタイトルにある「自閉症の心理化フィルタ仮説」は,「自閉症の認知粒度仮説」に精緻化されつつあり,今後の発展が期待される.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,2つの発達障害児グループについて並行してインタラクション観察を行うことが達成でき,効率的な行動データの収録が可能となった.これら群間の比較はまだ行っていないが,発達障害の幅広いスペクトルをモデル化の視野に入れていきたい. 自閉症モデルについては,従来からの「心理化フィルタ仮説」をより精緻化させ,「認知粒度」の違いによる知覚スタイルの差異として捉え直すことができた.認知粒度とは,さまざまなモダリティをとおして世界を知覚するときの粒度(解像度)であり,また記憶や心的操作を行うときの表象の大きさを意味する.自閉症の脳の解剖学的変異(ミニカラム数の異常など)とのつながりや,その他,既知の自閉症の病像とのマッチングも取れつつあり,その第一報を論文化することができ,大変有意義であった.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,本研究事業の最終年度になる.いままでのインタラクション観察および実験室での視線計測などのデータを詳細に分析するとともに,「心理化フィルタ仮説」の進化版である「認知粒度仮説」をより具体的かつ実証的に肉付けしていき,国際会議や論文の形で世界に問うていきたい. また,平成24年度までに療育施設で実施してきたロボットによる療育支援は,保護者や現場療育士からの強い要請もあり,今後は,本研究事業から段階的に切り離し,NPO法人などによる自律的かつ持続可能な療育支援事業として独り立ちさせていく方針である.
|
Research Products
(3 results)