2011 Fiscal Year Annual Research Report
高分解能角度分解光電子分光による銅酸化物高温超伝導体のバルク電子構造の研究
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21340088
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 宇史 東北大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (10361065)
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Keywords | 光電子分光 / 超伝導 / 銅酸化物 |
Research Abstract |
本年度は、開発を進めている超高分解能光電子分光装置の改良、具体的には、励起光源系と試料マニピュレーター系の改良を行った。銅酸化物高温超伝導体における超伝導ギャップと擬ギャップ、および参照物質として鉄系および層状カルコゲナイド超伝導体のフェルミ準位近傍の微細電子構造の決定を行った。装置の改良においては、低温角度可変型マニピュレーターの回転のステッピングモータとの同期処理と、LabViewを用いた制御プログラムの開発を行って、ギアの回転動作の確認を行った。また、励起光源系においては、真空紫外フィルターの交換および調整を行い、高い透過率で長時間安定した高分解能光電子分光測定を実現した。改良した光電子分光装置および高輝度放射光施設を用いて、単相および多層型Bi型銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップおよび擬ギャップの精密観測を行い、擬ギャップによって生じたフェルミアーク構造を超伝導転移温度よりも高い温度で観測することに成功した。このフェルミアークは、超伝導転移温度よりも遥かに高い温度でフェルミ面に連続的に移行することから、ノード近傍のフェルミアークの形成には、超伝導の前駆現象で生じる擬ギャップが密接に関係していると結論した。また、122鉄系超伝導体の電子状態のドープ依存性を角度分解光電子分光によって決定し、ホールドープ型と電子ドープ型の超伝導機構は共通している一方で、電子相図の非対称性は、ブリルアンゾーンのΓ点中心のホール的エネルギーバンドとM点中心の電子的エネルギーバンドの形状の非対称性が関係していると結論した。本研究によってよって明らかになった鉄系超伝導体における電子-ホール(非)対称性は、銅酸化物における電子相図の非対称性の起源を明らかにする上でも重要な手がかりを与えると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップの起源を明らかにするためには、その波数および温度依存性を高精度で測定する必要がある。開発した装置が安定して稼働しているため、高分解能の実験データが期待通り得られている。また、銅酸化物との比較のための関連物質の電子状態に対する光電子分光実験も概ね予定通り進行しているため、区分(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、高分解能角度分解光電子分光装置の更なる改良を進めつつ、銅酸化物およびその関連物質の超高分解能角度分解光電子分光実験を推進する。とりわけ、低温角度可変型マニピュレーターを実際の装置に組み込み、ブリルアンゾーン全体を網羅する角度分解光電子分光実験を行い、フェルミ面を形成するバンドの偏光依存性などから超伝導ギャップや擬ギャップ、また超伝導転移温度に対する軌道の寄与を明らかにする。超伝導転移温度の異なる物質のフェルミ準位近傍のバンド構造とフェルミ面を精密に比較することで、超伝導転移温度の上昇に重要な要素を絞り込む。
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Research Products
(14 results)