Research Abstract |
鍾乳石とトゥファは人口が集中する温帯~亜熱帯の陸域古気候を定量的に解析するという意味で重要な研究題材であり,両者を併用することで長期的かつ解像度の高い古気候情報が得られると期待される。 今年度は広島県神石高原町・新潟県糸魚川市等において石筍試料を採集し,分析を進めた。石筍試料は半割され,軽く研磨した上で,その一方の試料から,0.2mmの間隔で多数のサブサンプルを削り出し,酸素・炭素同位体測定を行った。また,石筍の年代測定を国立台湾大学の沈副教授に依頼した。 広島県の石筍には最終氷期以降の温暖化の過程が高解像度で記録されていた。最も顕著な降水量の増加は14.6kaに認められ,汎世界的な後氷期温暖化のタイミングと同調する。これは,福井県の花粉分析から示唆されていた日本における後氷期温暖化の非同調について,再考を促す重要な結果である。また,日本における夏のモンスーン活動がヤンガードリアス期に弱まり,その後,約8千年前に再び強まることも示唆された(Shen et al., 2010)。 糸魚川市で採集した長さ約18cmの石筍試料は過去9千年間に沈殿したものであった。石筍の酸素同位体比は,1,500年前までは時間とともに増加し,その後,減少する傾向が認められた。この記録は夏のモンスーン強度を反映する広島石筍や中国の石筍とは逆の傾向を示す。石筍の酸素同位体値は,降水の年間平均値を引き継ぐと考えられ,糸魚川では冬のモンスーンの影響が色濃く反映されたと考えられる。 また,トゥファについても様々な解析を進めた(Shiraishi et al., 2010)。
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