Research Abstract |
今年度は主にTerebratulina crosseiおよびBasiliola lucidaの殻の炭素・酸素同位体組成の個体差を検討した.ここでは,そのうち最も精力を注いだT.crosseiの個体祭に関する研究成果を報告する. 検討試料は,岩手県大槌湾口で採取された,同程度の大きさの現生個体9個体である.炭素同位体組成は,全ての個体において,海水と同位体平衡下で形成された方解石(以後,平衡方解石と称する)の炭素同位体組成よりも軽い値を示したが,それらの炭素同位体プロファイルは,変動パターンが大きく異なっていた.一方,酸素同位体組成は,大部分が平衡方解石の酸素同位体組成の範囲に収まり,全ての個体で顕著な年周期が認められた.本同位体組成と海洋データ(水温・塩分)を用いて求められる平衡方解石の酸素同位体組成の時系列変化とを比較した結果,腕足動物の酸素同位体組成は,多くの場合,海水温の低い時期に周囲の海水と同位体平衡であるのに対し,海水温の高い時期は非平衡(平衡方解石よりも重い酸素同位体組成)となることが明らかとなった.次に,個体の炭素・酸素同位体組成について相関関係を求め,反応速度論的同位体効果の個体差を検討した.その結果,強い正の相関関係を示す個体(1個体),弱い正の相関関係が認められる個体(7個体),ほとんど相関のない個体(1個体)がみられた. 以上より,同一環境に生息するT.crosseiの殻の炭素・酸素同位体組成の個体差および同一殻内における部位間の差異が明らかとなった.今後,本知見を化石に応用するためには,生息環境を正確に記録し(殻と平衡方解石の同位体組成が一致している,もしくはその差が小さい),個体差の小さな部位を特定する必要がある. 今年度の成果は,平成23年度の早い時期に取りまとめ,国際誌に投稿予定である.
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