Research Abstract |
マイトトキシン(MTX)は,年間5万人以上の中毒患者が発生する世界最大規模の魚介類による食中毒シガテラの原因物質のひとつであり,構造決定されている二次代謝産物の中で最大の分子量および最強の毒性を有する。MTXは,極微量で細胞内のCa^<2+>イオンの濃度を上昇させることが知られているが,作用標的分子や活性発現機構は明らかになっていない。その理由として,天然から得られる化合物が極微量であること,非特異的吸着が強いことなどが挙げられる。本研究では,分子レベルでの作用機構を解明するために,MTXの作用標的分子を同定することを目的とした。すなわち有機合成化学的手法によってマイトトキシンの部分構造を化学合成し,光親和性標識化した分子プローブを調製して作用標的タンパク質の同定を行う。平成22年度は,MTXの疎水性部分に相当するWXYZ環部の化学合成を検討した。WXYZ環部は本研究者が開発したα・シアノエーテルを経由する二環構築型合成法(α・シアノエーテル法)を用いて収束的に合成することを計画した。まず,W環部とZ環部からα・シアノエーテル法によりW環部とZ環部を連結し,ヒドロキシケトンへと誘導した。ヒドロキシケトンから環状混合チオアセタールへの変換は反応が遅く副反応を起こすことが問題点になっていたが,モレキュラーシーブスイ存在下,インジウムトリフレートを用いることで,非常に効率的に変換できることを見出した。さらに,環状混合チオアセタールから核間メチル基のであったが,反応条件を種々検討することで克服できた。次に,ビシナルジメチル基を有する側鎖部分の合成を検討した。酵素を用いた非対称化反応では高い不斉収率が得られなかったため,不斉補助基を用いたジアステレオ選択的反応により側鎖部分の合成を完了した。
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