2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヘテロ二核有機遷移金属錯体の金属間協同効果に関する研究
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21350034
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
小宮 三四郎 東京農工大学, 大学院・工学研究院, 教授 (00111667)
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Keywords | 有機ヘテロ二核錯体 / 協同効果 / 白金 / マンガン / ヒドロメタル化 / 配位不飽和種 |
Research Abstract |
本年度は、有機ヘテロ二核錯体のによる位置及び立体選択的チエタンの開環反応において、有機基の違いが反応の立体選択性を逆転させることを明らかにするため、ネオペンチル錯体の分子構造を明らかにした。予想に反し、ネオペンチル錯体はマンガン上のカルポニル配位子が白金-ネオペンチル結合に挿入しアシル錯体になり、そのアシル基の酸素がマンガン二架橋配位している予想をしていなかった構造を持つことを明らかにした。これはCO挿入反応が容易になったためと考えられるが、最も特徴的なことは、分子式が同じであるにもかかわらず分子構造の異なる異性体であったことである。特にカルボニル基による架橋配位は、白金-マンガン結合距離を短くしており、より強固な結合になていると考えられる。そのため、白金-マンガン結合の解離は起きにくくなるものと推定される。この事実は、チイランやチエタンがこれらの有機白金-マンガン錯体と反応する際、不均等解裂によるチイランやチエタンの配位したカチオン錯体の生成を抑えるものと考えられ、これがいわゆるSN2型の反応を阻害し、結果として直接の脱硫反応が立体保持で起きたことを説明できるものと考えられる。今後はこの機構を明らかにするべく詳細な動力学的検討を行う予定である。一方、可視光による還元的脱離(有機基移動反応)については、既存の有機ヘテロ二核錯体について検討したが、形式的には白金(III)-マンガン(0)錯体のような可視光による加速は観測されなかった。おそらく可視光による加速は、白金一マンガン結合の均等解裂の結果白金上で生ずるマンガンラジカル種が近くのメチル基を選択的にひきムックためと推定したが、その証拠は明らかでない。次年度においてさらなる検討を加えその特異な現象が起きる要因を解明する予定である。さらに、嵩高いリン配位子を持つパラジウム触媒を用いた遷移金属錯体のオレフィン及びアセチレンへのマルコフニコフ選択的ヒドロメタル化反応では、二つのリン配位子ではなく、一つのリン配位子が配位した配位不飽和種が活性種であることが明らかになった。これに対し、コンパクトはリン配位子を用いると、二つのリン配位子が配位している状態でも触媒活性が観測され、リン配位子の嵩高さが反応の活性種を決めることがありらかとなった、より詳細な反応機構を明らかにするとともに、超配位不飽和種による反応経路や支配因子を明らかにしてゆく予定である。また、国際的に評価の高い雑誌であるCoord. Chem. Rev.から執筆依頼があり、この機会を利用してこれまでの有機ヘテロ二核錯体に関する化学をまとめて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで行ってきた有機ヘテロ二核錯体の合成と反応性について、未解明であったアルキル基による反応特性の大幅な変化について明らかにすることができた。全く同じ組成のものであり、スペクトル的に区別できなかったものが、X線構造解析により予想とは異なる構造、即ちマンガン上のカルボニル基が白金-炭素結合に挿入しアシル基となり、これが白金とマンガンを架橋することによりより強固な白金-マンガン結合が形成され、反応性の違いを生み出していることが明らかとなった。また、ヒドロメタル化反応では、超配位不飽和種が活性種であることが判明した。このように、未解明であったいくつかの現象が、実験事実から明らかになり、ほんの一端ではあるが、異種金属間の協同効果が分子レベルで解明されてきつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、二つの遷移金属がもたらす協同効果の本質を少しでも解明するべく、以下のことを行う。(1)架橋カルボニル基がもたらすチイランやチエタンの開環反応の立体化学の違いを、分子レベルで明らかにする。これによげ、開環脱硫反応を制御するための基礎的知見を得る。また、ヒドロメタル化反応でみられる超配位不飽和種は、さまざまな反応において有効な活性種であると思われるので、さらなる結合切断反応などへの応用も検討したい。さらに、可視光による遷移金属上での結合生成反応については、その実例があまりにも少ないので現段階では、その実例をより多く見つけることが重要であろう。
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