Research Abstract |
研究計画最終年度となる2011年度は,これまで進めてきた理論研究の総括に加え,当初の研究計画を超えた発展も得られた. これまで推し進めてきた強相関電子系の熱電応答の研究に関し,実験グループとの共同研究を積極的に行い,バナジウム酸化物やコバルト酸化物などの熱起電力の特徴的な温度依存性やキャリアー濃度依存性における,クーロン相互作用の役割を明らかにした. 本計画では,量子-古典ハイブリッド系の実時間ダイナミクスのシミュレーション法を新たに開発することにより,時間反転の破れた系の外場応答の理論を進めてきた.この手法は,実は,線形応答の垣根を越えて,従来の理論では困難とされてきた平衡から遠く離れた相関電子系の励起状態とその緩和過程のダイナミクスの研究にも威力を発揮する.この理論的手法は,本計画の研究期間を通して,高次元の系のみならず,接合系の伝導にも耐えうるものに進化した.この手法を駆使することにより,相関電子系における励起した電子状態の緩和過程について,デバイスデザインまでも視野に入れた実時間シミュレーションを研究した.大規模行列の数値的対角化の手法も着実に発展させ,10億次元程度の固有値問題を取り扱うことにより,銅酸化物,ニッケル酸化物などを対象に,これまで困難とされていたパラメーター領域の電子状態計算を可能にした. また,磁性体と超伝導体からなる接合系の伝導理論にも進展があった.すなわち,磁性体を挟んで構成されるジョセフソン接合における,磁区構造の磁壁のダイナミクスを反映した電気伝導の理論を構築した.
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