Research Abstract |
過去の大地震では,古い鉄筋コンクリート建物の柱がせん断破壊して崩壊する被害が数多く見られた。一方で,柱がせん断破壊したにもかかわらず,崩壊を免れた事例も見られた。これは,柱にかかる軸力が梁を介して周辺の柱へ移動し,軸力が減少したためだと考えられる。地震のような水平力により柱にせん断破壊が生じ柱の鉛直変形が増大すると,その柱にかかる軸力は梁を介して周辺の健全な柱へ移動するのである。そこで,耐震診断基準における極脆性柱とせん断柱を対象として,軸力の減少度合をパラメータとした崩壊実験を行い,軸力が直定の場合との比較を行った。本研究の主要な成果は以下のとおりである。1)軸力を減少させた試験体は,一定軸力の試験体に比べ,大きな水平変形まで軸力を保持することができる。また,軸力を減少させる度合いが大きくなるほど,軸力減少後の水平力の減少,鉛直変形の増加が緩やかになり,崩壊水平変形が大きくなる。具体的には,もとの軸力の75%まで軸力を減少させると崩壊水平変形は3倍程度となり,50%程度(60%~40%)まで軸力を減少させると5倍程度となり,20%まで軸力を減少させると10倍程度となる。2)既往の崩壊水平変形推定式によれば,一定軸力の試験体に対しては,実験値/計算値の平均値は0.57であり,推定式が実験値を過大に評価した。しかし,軸力減少の試験体に対しては,軸力減少前の軸力比で計算すると,実験値/計算値の平均値と変動係数はそれぞれ3.01と0.42であるが,軸力減少後の軸力比で計算すると,実験値/計算値の平均値と変動係数はそれぞれ1.34と0,27となり,実験値との対応は良い。3)各試験体の崩壊水平変形と崩壊鉛直変形は,ほぼ正比例関係にあり,後者/前者の平均値は0.26となった。これは既往研究による後者/前者の平均値である0.22の値とほぼ一致した。
|