Research Abstract |
代表者らは,これまでに正方晶のペロブスカイト構造が絶対的に安定なRFeO_3(R:希土類元素)においても,希土類元素のイオン半径が小さい場合は,過冷したメルトからの急速凝固により,マルチフェロイック物質の候補と考えられている空間反転非対称の構造(六方晶,空間群:P6_3cm)の化合物が,特に低酸素分圧下で得られやすいことを実験的に明らかにした.これは,正方晶と六方晶の相選択においては酸素ポテンシャルが重要な役割を演じていることを示唆することから,本研究では,任意の過冷度で核生成させるためのトリガー機構を備えたガスダイナミック浮遊炉(ADL)を新たに用意し,超高速ビデオによるその場観察と併せて,正方晶と六方晶の相選択に及ぼす酸素ポテンシャルの影響を明らかにすることを目的とした.このため平成21年度は,ADLを酸素分圧の制御が可能な高真空チャンバー内に設置し,最大撮影速度が65万フレーム/秒の超高速ビデオを組み合わせた実験・観察システムにより,希土類・遷移金属酸化物を試料に用いて,過冷凝固時の挙動,特にリカレッセンス挙動と凝固界面形態の詳細な観察を可能にするための実験手法の確立を行った.その結果,LuFeO_3では六方晶が安定に得られるのの,酸素分圧を10^5Paに高めてもFe^<3+>→Fe^<2+>によると考えられる高導電率のFe_3O_4の生成を伴うことが分かった.強誘電性と強磁性を兼ね備えたマルチフェロイック性の出現には,強誘電性を示す六方晶LuFeO_3と併せて強磁性の代表的物質であるスピネル型フェライトとのハイブリッド構造が一つの解となるが,本研究で得られたFe_3O_4では,高導電率のためその目的に適わないことは明らかである.このため,平成22年度は,Feイオンの一部をMn等に置換する等,Fe^<3+>→Fe^<2+>の抑制を狙った実験によりマルチフェロイック性の出現の調査を予定している.
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