2011 Fiscal Year Annual Research Report
赤外分光法による光合成水分解反応の分子メカニズムの解明
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21370063
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野口 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60241246)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 千尋 神奈川県産業技術センター, 化学技術部, 主任研究員 (50233804)
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Keywords | 光合成 / 水分解 / 酸素発生 / 振動分光学 / 赤外分光 |
Research Abstract |
光合成による水分解・酸素発生反応のメカニズムを時間分解赤外分光法を用いて調べた。好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elontgatusより単離・精製した光化学系IIコア蛋白質複合体に、連続した閃光照射(2Hz)を与え、その際の赤外吸収変化をマイクロ秒からミリ秒オーダーで追跡した。1400cm^<-1>の赤外吸収変化によって蛋白質中のAsp,Glu由来のカルボキシル基(COO^-)の動きを、また、2500cm^<-1>の吸収変化によって、水素結合ネットワークにおける高いプロトン分極を持つ水素原子の動きを検出した。その結果、酸素が放出されるS_3→S_0遷移において、マンガンクラスターからチロシンラジカル(Y_z^-)への電子移動に先立つ約200μsのいわゆる"lag time"(他の分光法では何も変化が観測されない時間領域)においてプロトン放出を示唆する大きなプロトンの動きが観測された。また、S_1→S_2遷移においては、共役したプロトン移動と電子移動が、S_2→S_3遷移においてはマンガンクラスターからY_Z^-への電子移動よりも速いプロトン移動が観測された。一方、S_0-S_1遷移では、カルボキシル基の約1msのゆっくりとした構造変化が観測され、S_1状態における蛋白質の緩和過程を示すと解釈された。本研究は水分解反応における蛋白質及びプロトンの動きを時間分解赤外法で示した初めての研究であり、この手法が水分解機構の解明に極めて有効であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの赤外分光法を用いた研究によって、水分解反応の分子機構について、(1)新たな水の赤外バンドの検出、(2)プロトン検出、(3)カルボキシル配位子及びアルギニン側鎖の反応、(4)アンモニア阻害のメカニズムなど、さまざまな知見が得られている。さらに、本研究課題で最も大きな目標としていた、時間分解赤外分光による水分解反応の際の蛋白質およびプロトンのダイナミクスの検出に成功した。これらのことから、研究計画はおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
赤外分光法を用いて光合成水分解反応のメカニズムを明らかにするため、これまでの研究で開発した手法および明らかにした知見に基づき、(1)Ca^<2+>をSr^<2+>やBa^<2+>などの他の金属イオンに置換することによりCaに配位する基質水分子の反応を調べる、(2)アンモニウイオンやメタノールなどの阻害剤の各中間状態遷移への効果を調べる、(3)マンガンクラスターを安定化する表在性蛋白質の役割を調べる、(4)時間分解赤外分光法を用いて、C^<2+>やCl^-の役割や水の反応過程を調べる、等の研究を行う。
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Research Products
(27 results)