Research Abstract |
強光,乾燥,塩などの環境ストレスに応答してC_4植物の葉肉葉緑体が維管束鞘細胞側に集合する凝集運動は,過酷な気象条件の野外で生育しているC_4植物に共通の生理応答であると考えられるが,葉緑体の配向性を引き起こす情報伝達や運動制御系の実体,ならびに凝集運動の生理的意義については不明である。 本研究ではこれらの不明点を解明することを目指しており,本年度は以下の点を明らかにした。 C_4植物シコクビエの葉片にアブシジン酸溶液を浸透後,青色光を照射すると葉肉葉緑体の凝集運動が引き起こされる。同様の現象は,他の多くのC_4植物(トウモロコシ,パニカム属植物,ハゲイトウ,フラベリア)においても観察された。一方,C_3植物(オオムギ,パニカム属植物)の葉肉葉緑体では,凝集運動は観察されず,強光に応答した逃避運動(光の照射方向に対して垂直な細胞壁側に移動する運動)が見られた。また,C_3-C_4中間型植物においては,逃避運動に加えて弱い凝集運動が観察された。したがって,C_4植物は青色光とアブシジン酸に応答した凝集運動機構を普遍的に有しており,逃避運動機構をもつC_3植物からC_4植物が分岐進化する過程で,C_4植物特有の細胞内構造や代謝様式の獲得とともに葉緑体凝集運動機構も獲得してきたと推察された。また,環境ストレスにともなう葉緑体凝集運動の応答性を単子葉C_4植物と双子葉C_4植物間で比較したところ,単子葉C_4植物の方が顕著な応答性が見られた。したがって,C_4植物種によってストレス適応戦略が異なり,環境ストレスに応答した凝集運動の発現にも影響が及ぼされていると考えられた。
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