2011 Fiscal Year Annual Research Report
温暖化によるイネ科多年生雑草チガヤの分布拡大と雑種形成に関する雑草学的研究
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21380015
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨永 達 京都大学, 農学研究科, 教授 (10135551)
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Keywords | チガヤ / 分布拡大 / 温暖化 / 雑種 / 雑草 |
Research Abstract |
チガヤの普通型は東北南部から沖縄県の水田畦畔や路傍、芝地、果樹園などに広く生育し、早生型は北海道から九州の河川敷などやや湿った生育地に局所的に分布している。普通型がやや侵略的な特性をもつのに対し、早生型の生育地は限られている。温暖化にともない普通型の分布域が北上し、さらに、従来から分布している早生型との雑種形成による新たな雑草害が懸念される。本年度は、GOTアロザイムおよび葉緑体DNAのtrnL (UAA) 3' exon-trnF (GAA)領域に見られる21塩基対の挿入・欠失変異を用い、1980年代初めに採集し、現在まで系統維持している個体と昨年度東北で採集した個体を普通型、早生型および両者の雑種に類別し、さらに、雑種について、普通型あるいは早生型のいずれが母親であるか判別した。普通型の分布の北限は1980年代初めと比較すると北上していると予想していたが、昨年度東北で採集した個体の遺伝子型を解析した結果、山形県中部以北では普通型ではなく雑種が広く分布していることが明らかとなった。山形県には葉緑体DNAが普通型の雑種が多く、東北北部(青森県、秋田県および岩手県)には葉緑体DNAが早生型の雑種が多く見い出された。しかし、普通型の生育が認められないかあるいは生育密度が極めて低いと推定される東北北部で葉緑体DNAが普通型である雑種も見つかった。チガヤは自家不和合で、風媒であるため花粉が長距離散布することが予想されるが、種子はこれほど長距離散布されることは考えにくく、この雑種の起源について更なる解析が必要である。また、核遺伝子が早生型で葉緑体DNAが普通型である個体も認められ、これらは浸透交雑の結果生じた可能性が高いことが推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温暖化、特に冬季の最低気温の上昇によってチガヤの普通型が北上するとともに、東北北部で優占している早生型との雑種が形成されることによって新たな雑草問題が生じることが懸念され、分布状況の変化の実態を明らかにしようとした。当初の予想とは異なり、普通型の分布は30年前と比較して北上せず、雑種が青森県内で分布を拡大していることを明らかにした。当初の予想とは異なる結果を得たが、分布状況の変化を明らかにすることができ、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、チガヤの普通型および早生型の雑種を人工的に育成し、雑種の一部が両親よりも高い適応度をもつことを明らかにした。また、東北北部で雑種が広く分布していることを明らかにした。しかし、雑種の母親が、東北北部で従来分布が認められていない普通型であるケースが見いだされ、雑種の母親の起源を明らかにする必要性が生じた。今後この点を明らかにする予定である。
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Research Products
(2 results)