Research Abstract |
Lactobacillus gasseri JCM1131_Tの細胞を非致死濃度のコール酸に暴露すると(適応処理),致死濃度のコール酸に耐性となる.この「コール酸適応現象」の機構を検討し,以下の結果を得た. I.適応処理が細胞脂質組成に与える影響(北大:横田/吹谷+産総研:森田):これまでに,1)本菌の脂質は中性脂質,リン脂質,糖脂質からなるが,その構成比は適応処理前後でも変化しないこと,2)本菌のリン脂質はホスファチジルグリセロール(PG)とカルジオリピン(CL)からなるが,コール酸適応細胞ではPGが減少しCL含量が増大すること,3)本菌の糖脂質はグルコシルジアシルグリセロール;Glc-DG(GL1)及びこれにガラクトースが付加したGal-Glc-DG(GL2),Gal-Gal-Glc-DG(GL3),Gal-Gal-Gal-Glc-DG(GL4)からなること,4)コール酸適応細胞ではGL1とGL2が減少し,GL3とGL4含量が増大すること,が解っている.一方,本菌の脂肪酸組成が適応処理でどのように変化するかは不明である.そこで,適応処理前後での脂肪酸組成の変動を調べた. 適応処理前後の細胞から全脂質を抽出し,その全脂質由来の脂肪酸をガスクロマトグラフで分析した.その結果,1)本菌を構成している脂肪酸は主にパルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸であること,2)オレイン酸が全脂肪酸の90%以上を占めていること,3)適応処理後でも脂肪酸組成に変化が見られないこと,が解った.今回の実験では,適応処理前後で脂肪酸組成に変化が見られなかったことから,脂質を構成する脂肪酸はコール酸適応には関与しないことが解った.「PGからCLへの合成反応促進による細胞膜リン脂質組成の変化」がコール酸適応戦略の一つと考えているが,アシル基による膜流動性調節ではなく,CL増加に伴う親水基の共有結合の増加がコール酸防御に役立つことが推定された.
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