Research Abstract |
コナラ属樹木の種子である堅果の化学成分組成,特にタンニン含有率には,種間及び種内で大きな変異が存在する.このように多様な成分組成は,資源や系統的な制約の中で,種ごとに様々なバランスの取り方(資源投資戦略)があることを反映していると考えられる。そのため,堅果の化学成分組成の有する生態学的な意義を明らかにするために,以下の研究を行った。 盛岡近郊で2種(カシワ,ミズナラ)及び京都近郊で8種(コナラ,ナラガシワ,アベマキ,クヌギ,アラカシ,イチイガシ,シラカシ,ツクバネガシ)の堅果を採集し,タンニン類を中心とした化学分析を行った。子葉の化学成分の種間比較の結果,コナラ亜属はアカガシ亜属に比べ,縮合タンニン含有率が低く,タンパク質含有率が高い傾向が認められた。総フェノール含有率は,ミズナラ,コナラ,ツクバネガシで平均10%以上と高かったのに対し,イチイガシは平均2%程度と最も低かった。また,クラスター分析によって,2つの亜属及びアカガシ亜属の4種は独立のクラスターに分類されたが,コナラ亜属の6種は独立したクラスターを形成しなかった。子葉に含まれる化学成分間の関連を解析したところ,非構造性炭水化物含有率と総フェノール含有率との間に強い負の相関が認められ,種子レベルでの両成分間のトレードオフが示唆された。さらに,内種皮の成分分析の結果,内種皮率(内種皮乾重/子葉乾重)と内種皮タンニン含有率との間に正の相関が認められた。コナラ,ミズナラ,イチイガシは,内種皮率が高く,内種皮タンニン含有率も高いため,内種皮の防御に多くの投資を行っていると考えられる。このような化学成分の違いが,それぞれの種の生態とどのように関連しているかを検証することが今後の課題である。
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