Research Abstract |
医薬品,農薬,香料などの様々な製品に用いられる光学活性化合物の需要は年々高まり,さらに最近では,環境に負荷をかけない供給法が求められている。著者は最近,アリルアルコールにリパーゼとOV(OSiPh3)3を同時に反応させると,水酸基の1,3-転位を伴う動的光学分割(DKR)が進行し,(R)-アリルエステルを高収率で得られることを見出した。本法は多段階の反応が一つの反応容器内で進行して一挙に光学活性化合物を選択的に与えるため,冒頭の要求に適う方法である。本研究では,この酵素-金属複合触媒法を発展させ,ラセミ体アルコールから光学的に純粋な有機化合物を短工程,高収率で不斉合成する革新的手法の開発を行う。本年度は,研究実施計画に基づき次の成果を得た。 1. オキソバナジウムをメソポーラスシリカの細孔内部に固定化した新規触媒を調製した。本触媒はOV(OSiPh3)3よりも活性が高く,また,リパーゼとの併用によるDKRによって,光学活性アリルエステルをより高収率で与えた。 2. ジエノール化合物に,ジエノフィル部位を有する活性アシル化剤とリパーゼを反応させると,触媒光学分割に続き分子内Diels-Alder反応が連続進行して,ヒンバシンの中心骨格となる3環性構造をエナンチオ,並びにジアステレオ選択的に合成できることが分かった。H23年度は,これを動的光学分割に拡張し、ヒンバシンの不斉全合成を達成する。 3. (S)-アルコールを選択的にエステル化するプロテアーゼの固定化を検討した。現段階では十分な活性を得るに至っておらず,H23年度も引き続き検討する。 4. リパーゼ-バナジウム複合触媒を用いる動的光学分割をアルケニルクロロヒドリンに適用し,光学活性アルケニルオキシランの高収率合成法を開発した。
|