Research Abstract |
脂肪滴はほとんどの細胞に見られ,細胞の生存環境に応じて形成,成長,退縮する動的なオルガネラである.脂肪滴のコアとなるトリグリセリド,コレステロールエステルなどは小胞体膜で合成されるが,脂肪滴の形成,成長のメカニズムは明らかでない.脂肪滴の成長過程を可視化し,定量的に検索するための新たな方法を開発し,おもに線維芽細胞での脂肪滴成長メカニズムについて検討した.この方法は脂肪酸の不飽和度に応じて,トリグリセリドへの四酸化オスミウムの結合性が変化し,その結果,電顕で観察される脂肪滴の電子密度が変わることを利用する.あらかじめ細胞にオレイン酸(OA;炭素数18,不飽和結合1個)あるいはドコサヘキサエン酸(DHA;炭素数22,不飽和結合6個)を取りこませると,それぞれ電子密度の低い脂肪滴と高い脂肪滴ができる.その後,最初とは別の脂肪酸を細胞に与えると,脂肪滴の電子密度は経時的に変化する.グリッドと細胞外空間の2点を標準点とすることにより,個々の脂肪滴の電子密度を数値化し,定量的に比較することができる. 上記の方法で線維芽細胞を検索すると,OA→DHAという順番に投与した場合の脂肪滴はほぼ一様に低電子密度から高電子密度へという変化を示し,DHAだけでできる高電子密度の脂肪滴が独立に観察されることはなかった.DHA→OAという順番に投与した場合も同様であり,またノコダゾール処理で微小管を脱重合させ,脂肪滴の運動を極少にした細胞でも電子密度変化の一様性は保たれた.これらの結果は,線維芽細胞の脂肪滴の成長が,個々の脂肪滴局所におけるトリグリセリド産生・供給によって起こると考えると説明できる.一方,3T3-L1分化脂肪細胞においては,脂肪滴の電子密度の変化は一様に起こらず,直径によって異なっていた.このことは線維芽細胞と脂肪細胞では脂肪滴の成長過程に差があることを示唆する.
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