Research Abstract |
細胞の動的な形態変化は,組織構築から免疫や癌の浸潤,神経のネットワーク形成などに密接に関わり,細胞膜下に発達するアクチン細胞骨格はその主たる制御機構である.我々は先行研究において,細胞内アクチンが脱重合した際に供給される,アクチン単量体の濃度変動や細胞内密度不均一性が,アクチン重合加速分子であるmDia1や類縁のフォルミンファミリーによるアクチン重合活性と相関することを細胞内分子可視化によって見出した.この所見は,アクチン線維の再生を促すフィードバック制御を示唆している.今年度の研究では,細胞骨格を障害するような物理ストレス応答におけるこのアクチン脱重合-線維回生のフィードバック連関の役割について,細胞内分子可視化を用いて検証し,次のような知見を得た.(1)mDia1は,細胞への物理刺激に迅速に応答し,10秒以内に活性化する.(2)その活性化には,アクチン重合活性部位だけで十分であり,mDia1のN末端にある制御配列は必要としない.(3)類似のフォルミンファミリー分子も同様の反応を示す.(4)細胞内のカルシウムイオンやリン酸化酵素を阻害しても,この活性化は誘発される.以上の所見は,細胞におけるアクチン細胞骨格の物理的損傷を回復するための新たな分子機構を捉えた成果である.また,フォルミンファミリーはアクチン重合端にプロセッシブに結合しながら連続的にアクチン伸長を行うことを,2004年我々は証明したが,インビトロの1分子蛍光偏光観察によって,mDia1がアクチン線維の螺旋構造に沿って回転することを見出した.線維軸まわりの回転方向への力学的な影響がフォルミンファミリーによるアクチン重合と関わる可能性が示唆される成果である(投稿中).
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