2010 Fiscal Year Annual Research Report
ヒマラヤを越え河西回廊に伝わった密教的造形と表現,その表象芸術に関する研究
Project/Area Number |
21401018
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
服部 等作 広島市立大学, 芸術学部, 教授 (50218509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 照男 東京文化財研究所, 名誉所員 (20124191)
奥山 直司 高野山大学, 文学部, 教授 (50177193)
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Keywords | チベット / 密教美術 / 工芸美術 / シルクロード / ヒマラヤ / タボ / スピティ / 巡礼路 |
Research Abstract |
本研究の目的は,インドに誕生した仏教の密教化にともないヒマラヤを越え中国の河西回廊に伝播した後に中原や内蒙古へ流入する経由路に沿って密教芸術の基層文化の把握と信仰が栄えた「場」の解明にある。この目的にそった現地調査は,平成21年度にヒマラヤ北縁部中国側の河西回廊にある信仰の「場」=河西回廊の石窟寺院の調査,平成22年度にヒマラヤ南麓とインド側山岳部のスピティ渓谷のチベット寺院の調査をすすめた。 平成22年度の成果は,中央アジアやヒマラヤに至るまえの北西インドに通じるスピティーラル渓谷沿いに伝わる密教的造形と表現,その表象芸術に関する内容が把握できた。その具体的な意義は,密教美術の一大盛行の地,北西インドのスワートからカシミールに通じる「点-線-面」の信仰の場のなかで11世紀建立なるタボ,ナコ僧院に密教の基層文化が今も息づき,一方で,ヒマラヤの北側-グゲ王国より上記のタボ,ナコ僧院に伝わった密教的造形と表現の相互の芸術に流出/入の文化径路が確認できた。改めてヒマラヤにおける密教美術の造形と表現にかかわる「点-線-面」の位相と文化流出/入の一端を現地調査で確認できた。 こうした文化流出/入の様相は,中国に伝播した密教美術について大多数の研究がシルクロード(交易路)と西域の文化圏に偏るあまり,敦煌を代表に吐蕃の影響を局部的に捉えてきた偏りが硬直的である事を示唆する。すなわち敦煌莫高窟から蘭州柄霊寺石窟に至るまで21年度の石窟調査により吐蕃の密教文化が西安-中原,内蒙古に一方的に流入した内容とスピティ渓谷にのこされたタボ,ナコといった渓谷沿いの密教寺院の比較調査により,ヒマラヤ北縁の密教文化圏がインドと吐蕃,中央アジアの文化的な流出/入が頻繁,かつ継続的に影響しあい,チベットの文化圏に偏ることのない,いわばヒマラヤの文化圏を形成したとする研究視点をえた。
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