2012 Fiscal Year Annual Research Report
キツネザル類の生活史の進化に関する社会生態学的・遺伝学的研究
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21405015
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
高畑 由起夫 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (90183061)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (00177750)
茶谷 薫 名古屋芸術大学, 音楽学部, 講師 (80278530)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ワオキツネザル / マイクロサテライト遺伝子座 / ミトコンドリアDNA / 採食生態 / 個体群動態 / 出生性比 / 繁殖成功 |
Research Abstract |
本研究は、ホミニゼーションにおいてヒト特有の生活史特性が進化した要因を明らかにするため、マダガスカル島に生息する原猿類、とくにワオキツネザルの野生個体群を対象にしたフィールド調査によって、1.メスの生活史と繁殖成功、2.老齢個体の生存や繁殖特性、3.オスの生活史と繁殖成功、4.個体群の遺伝的構造の関係、5.形態(歯・生体計測・骨格等)等の資料を収集し、分析することを目標としている。 2012年度は、マダガスカル共和国ベレンティ保護区におけるワオキツネザル野生個体群を対象として、茶谷薫(研究分担者)と相馬貴代(研究協力者)が個体群動態資料、行動学的資料、およびロコモーションと形態学的資料の収集をおこなった。 また、2009~2010年度に現地で収集したDNA試料について、京都大学霊長類研究所において川本芳(研究分担者)と市野進一郎(研究協力者)がミトコンドリアDNAのDループ領域、ならびに2~4塩基の反復配列多型を示すマイクロサテライトの分析による父子判定や、遺伝学的特徴の分析を進めた。さらに佐藤宏樹(研究協力者)が、近縁種であるチャイロキツネザル採食樹種の母子判別に利用するマイクロサテライトマーカーの開発をおこなった。 さらに個体群資料にもとづいて、ワオキツネザルの長期的な個体群動態についての分析を進め、1.メスの生涯繁殖成功とその個体変異、2.成体の体重の変化、3.出生性比等について分析を進めた(高畑、市野)。これらの結果によって、ワオキツネザルの生活史の特性を明らかにしたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、ワオキツネザルの生活史に関する世界的に見ても貴重な繁殖資料を蓄積することで、メスの生涯繁殖成功がほぼあきらかになりつつある。さらに捕獲調査によって体重の変化等についても継続的資料が蓄積されている。とくに、対象とした野生個体群では、2006年度以降に体重が減少するとともに、出産率が維持されたまま、幼児死亡率が激増するなど、きわめて興味深い事実が明らかになっている。同時に、マイクロサテライトDNAの分析によって、野生個体群におけるオスの繁殖成功の分析も進んでいる。 形態学的資料については、顔面等の形態の発達やロコモーション、ならびにグルーミング部位の定量的観察が進んでいる。さらに同所に生息する原猿類のシファカを対象にして、ロコモーションやグルーミングの定量的比較も進めている。 さらに、マダガスカル西部に生息するチャイロキツネザルの種子散布行動について、雨季結実種と乾季結実種を対象に、種子親と実生の母子判別に利用可能なマイクロサテライトマーカーを開発して、野外での種子散布による遺伝子流動の分析を進めているところである。 現在、5年計画のうち4年が修了したが、チャイロキツネザル等を対象とする調査も含めて、キツネザル類の生活史の進化について多くの知見が明らかになっており、論文等の作成を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、引き続き現地調査による出産、死亡、移入、移出等の個体群動態資料の蓄積を進める。同時に、一般化線形混合モデル等を用いて「メスの繁殖競合」を解析するほか、「メスの寿命と繁殖期間」や「オスの群れ移籍」について分析する予定である。また、親子解析ソフトによって遺伝子資料を分析して、父性解析をおこなう。さらに遺伝子解析ソフトによって集団のクラスター解析もおこなう予定である。チャイロキツネザルについては、採食樹の遺伝子分析によって種子散布の実体を明らかにするとともに、採食パターンを分析する予定である。 このように、本研究によってワオキツネザルの野生個体群におけるメスの生活史の全貌が判明しつつある。とくに成長ならびに老化、とくに後繁殖生息期間(Post-reproductive life span)が存在するかどうかは、ヒトの女性の生活史における閉経の進化等について貴重な比較資料になるものと思われる。 今後も、行動生態・社会学的資料を蓄積することで、継続的資料の分析を進め、得られた成果に関する論文の作成を進める。さらにチャイロキツネザル等の近縁種の資料と比較することで、原猿類の生態上の特性を明らかにして、霊長類の進化においてヒト特有の生活史特性がどのように進化したのか、明らかにすることをめざす。
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