2010 Fiscal Year Annual Research Report
HBVゲノム相違を背景にした肝炎・肝癌の地理病理と病因論の展開
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21406007
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
阿部 賢治 国立感染症研究所, 感染病理部, 主任研究官 (60130415)
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Keywords | B型肝炎 / HBV / 国際研究 / 分子疫学 / 肝癌 / 台湾アボリジン |
Research Abstract |
HBVアジア株の遺伝的特徴を解析するため、今年度は台湾の高雄医科大学病院消化器科Ming-Lung Yu教授との共同研究により、台湾に古くから在住する原住民アボリジン27例から分離されたHBVの分子ウイルス学的特徴を検討した。方法は、HBVのpre-S1/S2領域のPCR産物を用いたダイレクトシークエンスを行い、塩基配列を決定した。得られたゲノムの特徴を、木村の8パラメーター法で遺伝的距離を確定し、近隣接合法を用いて分子系統樹解析を行い、ゲノタイプを同定した。結果は、pre-S1/pre-S2領域の解析から、ゲノタイプBが21例(77.8%)と最も多く、次いでゲノタイプDが6例(22.2%)であった。サブゲノタイプ分類ではゲノタイプBでは全例でB2、ゲノタイプDでは全例で既知のサブゲノタイプ分類であるD1~D8のいずれとも異なる集簇を形成した。さらに詳細に検討するため、ゲノタイプDから4株とゲノタイプBから2株を選び、全塩基配列を決定した。ゲノタイプDの4株は全て3182塩基からなった。サブゲノタイプ間での全塩基配列を基に、今回分離されたゲノタイプDに属すHBV4株との相違性は、D1(1.8-2.6%)、D2(2.0-2.7%)、D3(2.9-3.7%)、D4(3.7-4.3%)、D5(4.5-5.3%)、D6(4.7-5.6%)、D7(3.9-4.6%)、D8(4.6-5.2%)を示し、D1に最も近縁であった。またサブゲノタイプB2に属す2株は、1株はゲノタイプB/C、もう1株はゲノタイプB/Gのレコンビナントであった。HBVの場合、サブゲノタイプ分類は同一ゲノタイプ間での全塩基配列を基にしたその相違性が4~8%の場合とされており、今回分離されたゲノタイプDの4株はこれに合致せず、新規サブゲノタイプとは言えなかった。しかし、分子系統樹解析で既知のサブゲノタイプとは明らかに異なる集簇形成を認めたので、サブゲノタイプ分類不能とした。 今回の調査で、台湾アボリジンに感染しているHBVの主要なゲノタイプは、東南アジアに広く分布するB2であったが、約2割においてインド、ネパール、中近東、ロシアに広く分布するゲノタイプDであったことは、アフリカ起源とする人類移動の歴史を考察する上で、大変興味深い所見と言える。
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Research Products
(5 results)