Research Abstract |
平成23年度は,絵画の色彩構成の客観的分析のために必要な感性要素を探ること,分析に必須の画像色彩処理アルゴリズム・プログラムの開発,さらに色彩分析の基礎となる表色系と人間の色感覚・色知覚との関係の探究を行った以下学会等における発表内容に即し,研究成果を述べる. 2011年5月には,日本色彩学会第42回全国大会において,種々の知覚色表色系における色属性値間には本来数学的関係が存在することを明らかにし,多種の表色系の統一の可能性を示した.また,絵画画像の質感分析の基礎となるHaarウェーブレット変換に基づくアルゴリズムを発表した(連携研究者との共同研究).前者により,絵画の多様な色彩構成の扱いを,統一した表色系を用いて行うことが可能となる.後者により,絵画の色彩構成のおける感性要素としてのマチエールとの分析が可能となる. 同年6月7-11日には,スイス・チューリッヒにおいて開催された国際色彩会議AIC2011において,色彩に関する3件の研究発表を行った.そのうち次の2件が本研究テーマに直接関わるものである.1件目は,種々の表色値間の関係を明らかにし知覚色表色系の統一を計るもの,2件目は,連携研究者との共同研究成果である色彩分析ソフトウェア"SciColor"を紹介するものである.1件目は,5月の日本色彩学会における発表成果の拡充である.2件目は,絵画の色彩構成分析に役立つ画像色彩処理プログラムの,具体的な開発成果である. 9月には,日本心理学会において,絵画の色彩構成の客観的分析に数学的思考が必要なこと,およびそれによる分析結果を紹介した(招待講演).この成果は,2012年3月に発行された日本色彩学会誌,Vol.36,No.1に報告した(招待論文). なお,次ページの研究発表リストには未掲載であるが,日本色彩学会誌Vol.35,No.2より,19世紀フランスの色彩学者シュヴルールの大著「色彩の同時対比の法則とその応用」,Paris,1839年の邦訳(本邦初訳)を,毎号連載発表している.絵画を含む視覚芸術一般に広く影響を与えた文献であり,本研究のバックグラウンドとして極めて重要な地位を占める.
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