2011 Fiscal Year Annual Research Report
成長因子が情動に作用する分子メカニズムと神経新生との関わり
Project/Area Number |
21500306
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
有働 洋 九州大学, 大学院理学研究院, 助教 (70363322)
|
Keywords | 成長因子 / 情動 / 神経新生 / 気分障害 / マウス / うつ |
Research Abstract |
研究の目的は、成長因子が情動を制御するメカニズムを解析し、情動と神経新生との関係を調べるものである。平成23年度は、抗うつ・抗不安様行動を示すVEGFマウスを用いて1)分子細胞レベルの解析、2)行動レベルの解析、3)遺伝子発現システムの開発、を行った。1)分子細胞レベルの解析 : セロトニン受容体(12種類)とアドレナリン受容体(9種類)について、RT-PCR法でmRNAの発現量を比較したところ、ADRa1Aで発現量の減少が見られたが、全体的には野生型マウスと同程度であった。これまで、抗うつ剤による受容体の発現量の変化が報告されているが、VEGFの作用はこれとは異なると考えられる。一方、トリプトファン・チロシン水酸化酵素(モノアミン合成の律速酵素)のタンパク質量を比較したところ、変化はみられず、VEGFマウスにおける脳内セロトニン・ノルアドレナリンの減少は、合成ではなく代謝に起因すると考えられる。2)行動レベルの解析 : 平成22年度の継続で、動物個体数を増やして実験を進めた。VEGF依存性の抗うつ行動にたいして、セロトニン・ノルアドレナリン選択的再取り込み阻害剤(抗うつ薬)は影響しなかったが、セロトニンやカテコールアミンの枯渇剤により阻害された。この結果は、VEGFがモノアミン系を介して抗うつ・抗不安作用を発揮していることを意味し、以前実施したモノアミン解析の結果と一致している。一連の実験は、神経新生のレベルが野生型マウスと同程度まで減少した20週齢以上のVEGFマウスを使用していたことから、VEGFには神経新生を介さずに情動行動を制御する経路があることを示唆する(モノアミン系に直接作用する)。3)遺伝子発現システムの開発 : rtTAを用いた薬剤による人為的な遺伝子発現の制御に取り組み、Nestinプロモータの下流にrtTA-V16を導入したマウスを作出した。我々は、RT-PCR法によって神経新生の盛んな海馬でrtTA-V16の発現を確認し、神経幹細胞で遺伝子発現を制御できる系を構築することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝子改変動物を用いた様々な角度からの解析により、成長因子(特に、VEGF)がうつや不安などの情動に作用する仕組みが明らかになった。特に、近年注目されている「うつ病の神経新生要因仮説」とは異なる、新規のメカニズムを提示することができた。この研究の成果は、将来、うつ病を含む気分障害の治療や、抗うつ剤の開発に役立つものと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究で、VEGFによる情動行動への作用には、脳内モノアミン(特に、ノルアドレナリンやセロトニン)が関わっていることが分った。しかし、VEGFがどの脳内分子に作用してモノアミンの代謝を制御しているのかは不明である。そこで、モノアミンの代謝に関わる酵素(例えば、モノアミン酸化酵素やメチル基転位酵素等)に注目し、VEGFシグナル伝達系とどのような関連があるのか調べる必要がある。さらに、VEGFと似た作用を示す他の成長因子(例えば、脳由来神経栄養因子は、神経新生作用と抗うつ作用を共に有する)についても、神経新生を介さない抗うつ作用のメカニズムがあるのかどうかを検討する必要がある。
|