2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21500319
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Organization for Medical Research |
Principal Investigator |
筧 慎治 財団法人東京都医学研究機構, 東京都神経科学総合研究所, 副参事研究員 (40224365)
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Keywords | 小脳皮質 / プルキンエ細胞 / 情報変換 / フォーワードモデル / 座標系 / 脱抑制 |
Research Abstract |
小脳は運動指令の結果を予測する、いわゆるフォーワードモデルの座と考えられている。この仮説では小脳への入力は大脳皮質の運動指令の忠実なコピー(efference copy)であることが仮定される。従って、大脳出力を小脳に中継する橋核は単純な中継核として働き、入力から出力へは無変換であることが要請される。平成21年度にこの大脳コピー仮説の検証を行い、大脳皮質一次運動野、腹側運動前野のどちらの皮質領域に由来する小脳皮質への入力も、各大脳皮質のニューロン活動の正確なコピーであることが明らかになり、小脳入力の大脳コピー仮説を初めて証明した。そこで今年度は、小脳皮質の出力であるプルキンエ細胞活動の分析を行った。プルキンエ細胞は興奮性の苔状線維入力を興奮性の顆粒細胞を介して受けるため、運動指令により活動が増加すると信じられてきた。しかし予想に反し、198個の課題に関連するプルキンエ細胞の大多数(82%)は運動開始時に活動を急激に減少させることが明らかになった。この結果は小脳の情報処理における小脳皮質の役割、いわゆるside-path仮説(小脳核への苔状線維の興奮性直接入力が小脳情報処理のmain pathと考え、小脳皮質のプルキンエ細胞を介する抑制性間接入力をside pathと考え補助的な役割を仮定する考え方)に根本的な変更を迫ることになる。なぜならプルキンエ細胞の小脳核への作用は抑制であるため、プルキンエ細胞活動の減少は脱抑制により小脳核の興奮をもたらし、main pathの興奮性入力(苔状線維の小脳核への直接入力)を不要とするからである。実際、神経解剖学的にmain pathの存在は否定的であり、side-path仮説の矛盾とされてきた。今年度の成果は小脳の動作原理の理解に根本的変更を迫るものであり、小脳と大脳が連関して働くパラダイムの更新を要求するものである。
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