Research Abstract |
本年度は,高齢者におけるうつ病の構造的基盤としての神経可塑性を明らかにすることを目的とし,海馬神経新生に関する研究を進めた.実験には,中年マウス(10カ月齢)と若年マウス(2カ月齢)を使用し,海馬の長軸・短軸による差異を検討した.神経新生を定量的に評価するために,6種類の内因性マーカー(Sox2, GFAP, S100β, BLBP, DCX, PCNA)を使用し,optical disector法に基づいて,これらのマーカーによって標識される細胞の空間分布密度を求めた、Sox2陽性放射状グリア細胞や,BLBP陽性放射状グリア細胞,DCX陽性神経前駆細胞の空間分布密度は,若年マウス,中年マウスのどちらも背側海馬の方が腹側海馬より高かった.海馬の仮想スライスに含まれる細胞数は,放射状グリア細胞,神経前駆細胞のいずれも加齢による減少を示した.減少率は,放射状グリア細胞(50-70%)よりも神経前駆細胞(90-95%)の方が大きかった.興味深い結果として,放射状グリア細胞,神経前駆細胞のどちらも,腹側海馬の方が背側海馬よりも減少率が大きいことが示された.一方で,S100β陽性グリア前駆細胞の空間分布密度は,若年マウス,中年マウスのいずれも腹側海馬の方が背側海馬より高かった.S100β陽性グリア前駆細胞の空間分布には,若年マウスと中年マウスで有意な差が認められなかった.これらの結果は,海馬神経新生の加齢による減少は,腹側海馬で背側海馬よりも先行するが,グリア新生に加齢による変化がないことを示している.近年の報告によって,背側海馬が記憶に,腹側海馬が不安関連行動に関与していることが示されていることから,本研究の結果は,高齢者に多いうつ病から初発する認知症の病態基盤を理解する上で,重要な示唆を与えるものである.
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