Research Abstract |
近年になり,アストロサイトの多様性が,ニューロンの栄養や支持,シナプス伝達の調節などに関わっている可能性に注目が集まっている.本年度は,加齢に伴う記憶と情動の変化について,構造的な知見を得ることを目的に,海馬のアストロサイトの免疫学的多様性と空間分布様式に関するダイセクター定量解析を行った.実験には,中年マウス(10カ月齢)と若年マウス(2カ月齢)を使用し,海馬の長軸・短軸による差異を検討した.アストロサイトの同定には,glial fibrillary acidic protein(GFAP)とS1OOβを用いた.さらに,近年アストロサイトへの発現が報告されているsex determining region Y-box2 (Sox2)の海馬における発現様式を解析した.解析の結果,海馬においては,90%以上のアストロサイトがSox2を発現しており,層や領域による差異は殆どないことが示された.一方で,アストロサイトにおけるGFAPの発現率も多くの層で90%を越えていたが,腹側海馬CA3領域の錘体細胞層では,発現率が70%程度と低かった.S1OOβのアストロサイトにおける発現率も同様に,多くの層で90%を越えていたが,腹側歯状回門では,発現率が70%程度と低かった.Sox2,GFAP,S100βの発現率はいずれも加齢による有意な変化はほとんど認められなかった.我々は次に,加齢に伴うアストロサイトの分布様式の変化を調べた,背側アンモン角の網状分子層で,アストロサイトの数が有意に増加していた.一方で,背側・腹側アンモン角の透明層ではアストロサイトの数が有意に減少していた.アンモン角の網状分子層は空間記憶に関わっている嗅内野と,透明層は情動に関わる扁桃体との線維結合があることから,これらの結果は,加齢に伴ううつ病や認知症の構造的基盤として,神経回路特異的なアストロサイトの空間分布様式の変化が関与していることを示唆している
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