Research Abstract |
本研究は手のテンプレートの選択による手の大きさの知覚変化と触覚・温度感覚の閾値変化との対応関係を検討した。被験者は神経学的な病気のない10名の健康な男女成人である(年齢24-54歳)。対照実験では被験者は閉眼で椅座位をとり,右腕を被験者の眼前の机に伸ばして置き,手と前腕は枕の上に置いた。右上腕部には加圧されていないカフがすでに装着されている。被験者はこの状態で,温度感覚と触覚の検査を栂指,手首,肘において5分の周期で4回行われた。温度感覚と触覚の検査終了後,知覚された手の大きさを評価するために,被験者は右の手と前腕を紙箱で隠されたまま開眼し,被験者の眼前1mに提示された用紙の中から,手の大きさに一致したテンプレートを10秒以内に選択した。対照実験終了後,被験者の右上腕部にカフ圧(250mmHg)を加え,肘の触覚がなくなり,右手の運動が消失するまで圧を加えた(約40分間)。カフ加圧中,温度感覚と触覚の検査,手のテンプレートの選択が対照実験と同一の手続きで5分毎に行われた。その結果,知覚された手の大きさはカフ加圧後徐々に大きくなり,カフ加圧終了までに38%の増加率に達した。触覚は手で19.5分,肘で37.5分に消失した。冷覚の閾値は20-25分までに腕まで変化し始め,カブ圧終了までに5-10s上昇した。その変化は近位部よりも遠位部で大きかった。それに対して,カフ圧後30-40分経過しても,熱による痛覚は誘発され,C線維の機能に対応する痛覚は3箇所でわずかしか変化しなかった。したがって,本研究の結果は手の大きさの知覚変化が冷覚に関与する小径有髄神経線維(Aδ線維)と触覚に関与する大径有髄神経線維(Aβ線維)の麻痺に対応していた。しかし,本研究の方法は選択的に末梢神経を麻痺できないので,幻肢の大きさに与えるAδ線維とC線維の機能的役割を明らかにできなかった。
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