Research Abstract |
本研究では,運動後低血圧(PEH)への運動肢の下肢血液貯留の関与を検討することを目的として,平成21年度は「1回の運動で認められる,運動肢の血液貯留と血漿量の関与」に着目した実験を2つ行った。 ● 平成21年度前期,(実験1)運動前後の下腿静脈コンプライアンス(VC)の検討:運動肢の静脈血管網の血液貯留に着目し,その大小を規定するVCを安静時と運動後で比較した。被験者は健康な男女8名であった。各被験者は50%VO2maxの負荷で自転車エルゴメーター運動を60分間行った。運動前後には,腿静脈全体のコンプライアンス(VCp)と膝窩静脈のコンプライアンス(VCu)を算出した。VC試行中における平均血圧(MAP)は,運動前に比べ,運動後で有意な低下が認められ,運動後低血圧(PEH)が確認された。VCpおよびVCuは,運動前の安静と,PEH中において,有意な差は認められなかった。また,VCpおよびVCuと,ΔMAP(血圧の差)の間には,有意な相関関係は認められなかった。以上のことから,PEHには下肢血液貯留が直接的には関与していないことが示唆された。 ● 平成21年度後期,(実験2)実験1の結果を踏まえて,当初計画していた下肢血液貯留量を人為的に操作する実験計画を見直し,PEHと血漿量(PV)の関与を探るために,PEHに及ぼす運動後の水分摂取の効果を検討した。成人男性7名は,脚自転車エルゴメーター運動(60%予備心拍強度で1時間)を行った。水分摂取のないコントロール条件と,水分摂取条件として,コントロール条件における体重減少に相当する水分を運動中に摂取させた。コントロール条件でのMAPは,運動前と比較して有意な低下が認められた。一方,水分摂取条件では運動前に対して,運動終了約15分後には有意なMAPの増加が認められ,その後は運動前と同じ水準を維持した。PVは水分摂取のないコントロール条件,水分摂取条件ともに,運動終了直後に減少を示したが,30分目には回復した。これらの結果より,PEHには運動に伴う血漿量低下が直接的には関与していないこと,また運動中に水分摂取を行うとPEHがほぼ消失することが明らかとなった。
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