Research Abstract |
虐待防止を見据えた基礎研究において,子どもが安定して育っていくためには,養育者が応答的で,常に子どもに応答をきちんと返すことの重要性が示されている(Emde et al.,1993)。この能力を情緒応答性と言う。本研究では,この情緒応答性に焦点を当て,養育者は乳児の何を手がかりとして乳児の情動や状況を読み取っているのか,養育者は乳児に対してどのような反応を返しているのか,養育者は乳児の情動認知と乳児への情動表出の間にはどのような情動調整を行っているのかを明らかにする目的で研究を行った。特に,生後直後の乳児に対する母親の応答性を,乳児に社会的微笑が出現する生後4ヵ月まで縦断的に,視線分析によって検討した。 被験者は研究協力の同意が得られた出産直後の母親である。生後2~3日,生後1ヵ月,生後4ヵ月のすべての時期に測定できた被験者は10名である。被験者にEye mark Recorder (Nac)を装着させ,乳児を10分間あやすよう指示した。あやし行動中の被験者の注視点等のデータをSDカードに録画した。10分間の録画を再生し,被験者の視線の対象を測定した。さらに,乳児の微笑時における母親の対応として,乳児への視線,言葉かけ,接触行動の出現率を測定した。 生後直後の乳児の母親の注視は,ほとんどが乳児の顔81.47±18.92%(Mean±SD;以下同様)に向けられていたが,生後1ヵ月では71.06±8.28%,生後4ヵ月では91.62±8.28%とさらに増加した。生後直後から4ヵ月時点における母親の乳児の顔への注視度は,F(2,18)=6.80,p<.05で有意差がみられ(反複測定分散分析),さらにScheffeの多重比較の結果,生後1ヵ月と生後4ヵ月との間で有意差が見られた。さらに,児の微笑への応答の変化として,乳児への言葉かけ,接触行動にも生後1ヵ月と生後4ヵ月との間で,5%水準で有意差が見られた(反複測定分散分析)。即ち,乳児が4ヵ月になると,母親の言葉かけや接触行動が有意に増加し,応答性が一層よくなるといえる。
|